ウクライナ戦争に関して、国連は何をしているのか? 国連で実効性のある対応が可能なのは、唯一安全保障理事会だけである。しかし、ロシアは常任理事国として拒否権を有しているから、何も決まらない。これはイスラエルの行動に関しては、アメリカが拒否権を行使するから何も決まらないのと同じである。もっとも安保理が何事かを決議しても、当該国が無視すればそれっきりだが。そのため、今回は国連総会の緊急特別総会が開催された。これは過去に10回開かれているが、新しい総会としては21世紀初になる。(パレスチナ問題では継続して開かれている。)そして3月2日にロシア非難決議案が採択されたわけである。
もう1ヶ月以上経ってしまったが、各国の判断状況をまとめておきたい。新聞に国ごとの投票行動が報道されたが、国連発表通りにアルファベット順で掲載されているから判りにくい。例えば、アメリカや日本等が共同提案した決議案には96ヶ国が名を連ねている。数で言えば非常に多いが、その筆頭はアフガニスタンである。タリバン政権はアメリカに賛同したのか。そうではなく、ミャンマーの軍事政権とアフガニスタンのタリバン政権は、未だに国際的な承認が得られず、国連代表部の扱いは信認委員会で審議中である。両国とも前政権が任命した代表部が共同提案に加わることを判断したと思われる。
(各国の投票行動状況)
ロシア非難決議に関する投票行動には5つのカテゴリーがある。
A.賛成(共同提案国)=95ヶ国
B.賛成(共同提案国以外)=45ヶ国
C.反対=5ヶ国
D.棄権=35ヶ国
E.無投票=12ヶ国
「国連でロシアは孤立していない」と主張する人もいるが、それはやはり強弁と言うべきだろう。まあ「棄権」も多いとは言え、賛成が140ヶ国で、反対は5ヶ国だから、ロシアが多くの国々に非難されたのは間違いない。反対の5ヶ国はロシアとベラルーシという当事者を除けば、エリトリア、シリア、朝鮮民主主義人民共和国である。シリアのアサド政権はロシアの軍事力に完全に依存している。ところで、エリトリアは何で反対なのか。エリトリアは紅海に面したアフリカ北東部の国で、1993年にエチオピアから独立した。長く独立運動を率いたエリトリア人民解放戦線のイサイアス書記長の独裁が続き、「アフリカの北朝鮮」とも言われるという。エリトリアもエチオピア内戦に介入していて、そういう問題も絡んで反対したのではという話。
反対は極少数だから、問題は「賛成か、棄権か」になる。無投票と棄権は何が違うのか、僕にはよく判らない。棄権は「総会で棄権という意思表示をした」ということで、無投票は何も意思を表明していないということだろうが、違いはあるのだろうか。
各地域別に見ていくが、まず「東南アジア」(ASEAN)諸国。共同提案国がカンボジア、インドネシア、ミャンマー、シンガポールの4ヶ国、共同提案以外の賛成がブルネイ、フィリピン、マレーシア、タイの4ヶ国、棄権がベトナム、ラオスの2ヶ国。いつもは一番中国寄りのカンボジアが共同提案に加わったが、ベトナム、ラオスは棄権。かつて戦争中にソ連が支援したかどうかの問題か。あるいは中国への配慮か。フィリピン、タイなどが共同提案に何故加わっていないのも疑問がある。
西アジア・北アフリカのイスラム圏(アラブ連盟)。共同提案国が、クウェート、カタールの2ヶ国、共同提案以外の賛成が、バーレーン、コモロ、エジプト、ヨルダン、ジブチ、リビア、レバノン、モーリタニア、オマーン、サウジアラビア、チュニジア、アラブ首長国連邦、イエメンの13ヶ国、棄権がアルジェリア、イラク、スーダンの3ヶ国、無投票がモロッコ、反対がシリア。アラブ圏では圧倒的に「共同提案以外の賛成」が多い。それは恐らくは、イスラエルによるパレスチナ問題に拒否権を行使するアメリカと共同行動は取れないということだと思う。ただし、クウェートはウクライナにかつての自国と同様の事態を見て共同提案に参加したと思われる。他の諸国もほとんどはロシアの主権侵害行為には反対である。
(国連特別総会の様子)
次に旧ソ連構成諸国。共同提案国が、エストニア、ラトビア、リトアニア、ジョージア、モルドバ、ウクライナの6ヶ国、反対がロシア、ベラルーシ、棄権がアゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6ヶ国、無投票がトルクメニスタン、ウズベキスタンである。ロシアに対する親疎の関係が投票に反映されている。共同提案国はウクライナ以外でもロシアの圧迫を受けている。しかし、棄権、無投票を加えれば、その方が多い。ソ連構成国ではないが、事実上ソ連の「衛星国」だったモンゴルも棄権している。ロシアと中国にはさまれているモンゴルには賛成という選択肢が採れないのだろう。
次からは棄権国だけ見る。ラテンアメリカ諸国。棄権したのは、ボリビア、キューバ、エルサルバドル、ニカラグアの4ヶ国、無投票がベネズエラ。なお、地域大国のブラジルは共同提案国以外の賛成だった。この地域は右派政権、左派政権が入り乱れているが、かつてソ連と深い関係があったキューバも反対はしなかった。同じ立場でアメリカに侵攻されたら困るわけで、国家主権最優先という意味では棄権しかないのだろう。
南アジアではインド、中国への配慮が強く、インド、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンが棄権に回っている。ブータンだけが共同提案国以外で賛成した。アフリカ、オセアニアまで見るのは大変なので省略する。まあ国の名前だけ書いてもイメージが湧かない人もいるだろう。その後、UAE(アラブ首長国連邦)は棄権に転じた。安保理議長国だったこともあるだろうが、ロシアの新興財閥層のマネーロンダリング先でもあって、何やら深い関係があるかもしれない。またイエメン内戦との関わりも考えられる。
棄権国、無投票国の合計47ヶ国というのは、多いのか少ないのか。どういう言い方も可能かと思うが、安保理で制裁が成立しない以上は、インドと中国という世界で一番人口が多い2ヶ国との貿易が残り続ける。ちなみにまだ人口1位は中国だが、差は5千万人ぐらいなので遠からずインドが1位となる。ロシアは原油を割引でインドに提供しているらしい。ロシアは大資源国で、買わざるを得ない国もあるので、かつての日本のように石油資源が得られなくなることはないだろう。
もう1ヶ月以上経ってしまったが、各国の判断状況をまとめておきたい。新聞に国ごとの投票行動が報道されたが、国連発表通りにアルファベット順で掲載されているから判りにくい。例えば、アメリカや日本等が共同提案した決議案には96ヶ国が名を連ねている。数で言えば非常に多いが、その筆頭はアフガニスタンである。タリバン政権はアメリカに賛同したのか。そうではなく、ミャンマーの軍事政権とアフガニスタンのタリバン政権は、未だに国際的な承認が得られず、国連代表部の扱いは信認委員会で審議中である。両国とも前政権が任命した代表部が共同提案に加わることを判断したと思われる。
(各国の投票行動状況)
ロシア非難決議に関する投票行動には5つのカテゴリーがある。
A.賛成(共同提案国)=95ヶ国
B.賛成(共同提案国以外)=45ヶ国
C.反対=5ヶ国
D.棄権=35ヶ国
E.無投票=12ヶ国
「国連でロシアは孤立していない」と主張する人もいるが、それはやはり強弁と言うべきだろう。まあ「棄権」も多いとは言え、賛成が140ヶ国で、反対は5ヶ国だから、ロシアが多くの国々に非難されたのは間違いない。反対の5ヶ国はロシアとベラルーシという当事者を除けば、エリトリア、シリア、朝鮮民主主義人民共和国である。シリアのアサド政権はロシアの軍事力に完全に依存している。ところで、エリトリアは何で反対なのか。エリトリアは紅海に面したアフリカ北東部の国で、1993年にエチオピアから独立した。長く独立運動を率いたエリトリア人民解放戦線のイサイアス書記長の独裁が続き、「アフリカの北朝鮮」とも言われるという。エリトリアもエチオピア内戦に介入していて、そういう問題も絡んで反対したのではという話。
反対は極少数だから、問題は「賛成か、棄権か」になる。無投票と棄権は何が違うのか、僕にはよく判らない。棄権は「総会で棄権という意思表示をした」ということで、無投票は何も意思を表明していないということだろうが、違いはあるのだろうか。
各地域別に見ていくが、まず「東南アジア」(ASEAN)諸国。共同提案国がカンボジア、インドネシア、ミャンマー、シンガポールの4ヶ国、共同提案以外の賛成がブルネイ、フィリピン、マレーシア、タイの4ヶ国、棄権がベトナム、ラオスの2ヶ国。いつもは一番中国寄りのカンボジアが共同提案に加わったが、ベトナム、ラオスは棄権。かつて戦争中にソ連が支援したかどうかの問題か。あるいは中国への配慮か。フィリピン、タイなどが共同提案に何故加わっていないのも疑問がある。
西アジア・北アフリカのイスラム圏(アラブ連盟)。共同提案国が、クウェート、カタールの2ヶ国、共同提案以外の賛成が、バーレーン、コモロ、エジプト、ヨルダン、ジブチ、リビア、レバノン、モーリタニア、オマーン、サウジアラビア、チュニジア、アラブ首長国連邦、イエメンの13ヶ国、棄権がアルジェリア、イラク、スーダンの3ヶ国、無投票がモロッコ、反対がシリア。アラブ圏では圧倒的に「共同提案以外の賛成」が多い。それは恐らくは、イスラエルによるパレスチナ問題に拒否権を行使するアメリカと共同行動は取れないということだと思う。ただし、クウェートはウクライナにかつての自国と同様の事態を見て共同提案に参加したと思われる。他の諸国もほとんどはロシアの主権侵害行為には反対である。
(国連特別総会の様子)
次に旧ソ連構成諸国。共同提案国が、エストニア、ラトビア、リトアニア、ジョージア、モルドバ、ウクライナの6ヶ国、反対がロシア、ベラルーシ、棄権がアゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6ヶ国、無投票がトルクメニスタン、ウズベキスタンである。ロシアに対する親疎の関係が投票に反映されている。共同提案国はウクライナ以外でもロシアの圧迫を受けている。しかし、棄権、無投票を加えれば、その方が多い。ソ連構成国ではないが、事実上ソ連の「衛星国」だったモンゴルも棄権している。ロシアと中国にはさまれているモンゴルには賛成という選択肢が採れないのだろう。
次からは棄権国だけ見る。ラテンアメリカ諸国。棄権したのは、ボリビア、キューバ、エルサルバドル、ニカラグアの4ヶ国、無投票がベネズエラ。なお、地域大国のブラジルは共同提案国以外の賛成だった。この地域は右派政権、左派政権が入り乱れているが、かつてソ連と深い関係があったキューバも反対はしなかった。同じ立場でアメリカに侵攻されたら困るわけで、国家主権最優先という意味では棄権しかないのだろう。
南アジアではインド、中国への配慮が強く、インド、バングラデシュ、スリランカ、パキスタンが棄権に回っている。ブータンだけが共同提案国以外で賛成した。アフリカ、オセアニアまで見るのは大変なので省略する。まあ国の名前だけ書いてもイメージが湧かない人もいるだろう。その後、UAE(アラブ首長国連邦)は棄権に転じた。安保理議長国だったこともあるだろうが、ロシアの新興財閥層のマネーロンダリング先でもあって、何やら深い関係があるかもしれない。またイエメン内戦との関わりも考えられる。
棄権国、無投票国の合計47ヶ国というのは、多いのか少ないのか。どういう言い方も可能かと思うが、安保理で制裁が成立しない以上は、インドと中国という世界で一番人口が多い2ヶ国との貿易が残り続ける。ちなみにまだ人口1位は中国だが、差は5千万人ぐらいなので遠からずインドが1位となる。ロシアは原油を割引でインドに提供しているらしい。ロシアは大資源国で、買わざるを得ない国もあるので、かつての日本のように石油資源が得られなくなることはないだろう。