尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

ノーベル地学賞はないのだろうか-ノーベル賞番外

2014年10月22日 21時07分17秒 | 社会(世の中の出来事)
 ノーベル賞問題の最後というか番外編。憲法9条問題や村上春樹などを書きたいのだと思われたかもしれないが、それは前々から考えていたのでいつでも書ける。最近はトリュフォー映画祭をずっと見ていて時間がないから書きやすい問題を書いていたのである。(青色発光ダイオードの問題だけは、調べないと書けないから、書いていて一番面白かった。)もともと「地学教育の振興」という問題意識を持っていて、ちょうどいい機会だからノーベル賞と絡めて書いておきたい。

 10月初めの週末は連続で大型台風が襲来した。その前の週末には、木曽の御嶽山が突然噴火して多数の犠牲者が出た。そのひと月前には広島市で大規模な土砂災害が起こり、やはり多数の犠牲者が出た。一年前には伊豆大島で同じく大規模な土砂災害が起きた。そして3年半前には、三陸海岸沖でマグニチュード9の巨大地震が起きた。日本で生きている以上、地震、津波、火山噴火、台風、土砂災害などが起きることは避けられない。それが判っている以上、大地と気候のシステムを研究し、防災体制を整えることが重要だろう。でも、こういう問題が起きると、いつも地震や火山の研究者が少ないとか、恵まれていないという話を聞く。

 ノーベル賞になぜ地学賞がないのだろうか。それを言っても仕方ないけれど、もし「ノーベル地学賞」があったならば、世界中で、そして日本各地で、地震や火山、あるいは気候変動などの研究がもっと盛んになっていたのではないだろうか。ノーベル賞はノーベルの遺言で設立されたが、その中に「地学」分野に賞を作ることは入っていなかった。それはスウェーデンには地震や津波、火山噴火、台風などの被害がないからに違いない。医学賞や平和賞を設けたノーベルなんだから、もし大地震や巨大台風に襲われる国に生きていたら、そういう研究にも賞を設けて少しでも災害を少なくする研究を奨励していただろう。
  
 もっとも日本の理科教育では「地学」に含まれる「天文学」は、今や物理学賞の重要な一部門である。地球科学そのものも物理現象で起きているわけだから、一応は物理学賞で対応できないわけではない。(たまに地学分野に近い受賞がないわけではない。)しかし、ノーベル賞の自然科学3賞が、日本の理科教育の3科目、物理、化学、生物にほぼ対応するとすれば、もう一つの地学のみがノーベル賞がないという印象が強い。日本では、政府がノーベル賞受賞者を「50年間に30人」という数値目標を掲げているらしい。研究業績を数値目標で測るバカバカしさはともかく、そう決めてしまえば、ますますノーベル賞のない地学分野に進もうと考える若い研究者が減ってしまうのではないか。また研究費でも恵まれないということにならないだろうか。

 ないものは仕方ないのでノーベル賞は諦めるとして、それに匹敵する権威ある賞を日本が設立すればいいわけである。というか、似たような賞がすでにある。それは松下幸之助氏が寄付をして発足した「日本国際賞」で、ノーベル賞並みの賞をという発想で作られ、1985年以来2014年で30回を迎える自然科学分野の賞である。自然科学の様々な分野に贈られていて、プレートテクトニクス理論を確立した学者も対象になっている。毎年ではないけれど、地学分野にも贈られている。でも受賞者一覧をみた印象としては、医学賞、化学賞、あるいは情報科学のような分野が多い感じがする。この30年ほどの間にもっとも進んだ分野だから、当然と言えば当然だろうけど。だから、この賞の中でもいいし、別に作るでもいいけど、日本が中心になって地球に関する研究、あるいは防災技術の研究開発に対する世界的な賞を作るべきではないだろうか。

 僕がここでいくら書いても仕方ないけど、では高校教育の中で「地学」はどのくらい学ばれているのかを最後に確認しておきたい。と言っても、どうやって調べればいいのか。日本全体で各科目をどのくらいの高校生が履修しているかの統計は多分ないと思う。正規の科目として授業を行う時には、「教科用図書」を使用しなければならない。だから、教科書採択数(あるいは出版部数)が判ればいいのだが、それもよく判らない。だから、東京都で来年度にどのくらいの学校が地学の教科書を使用するかで考えることにする。高校といっても、大規模な全日制高校もあれば、小規模な定時制高校もある。どっちも一校ではおかしいが、それ以上は判らないので仕方ない。

 東京には、全日制高校175定時制高校55(定時制単独校=三部制高校もあるが、大部分は全定併置校)があり、通信制高校3、都立中等教育学校5がある。合計すれば、238校となる。多分すべての高校で来年度に使用するはずの保健体育の教科書は、245校で採択されている。(保健体育は2社、3点の教科書しかない。)どうしてこの数になるのか判らないけど、まあ、全部の学校で使うと、そのくらいの数になるわけだ。

 新教育課程では理科が非常に複雑で、一応書かないわけに行かないが、関係ない人はスルーして欲しい。「科学と人間生活」という2単位科目が新設され、他に「物理基礎」「物理」、「化学基礎」「化学」、「生物基礎」「生物」、「地学基礎」「地学」がある。「基礎」は2単位科目で、基礎じゃないのは4単位科目。さらに「理科課題研究」という1単位科目がある。必履修科目は「『科学と人間生活』を含む2科目又は基礎を付した科目を3科目」という、よく読まないと理解できない決まりになっている。それはともかく、来年の理科の教科書採択数は以下のようになる。

 科学と人間生活=105校、
 物理基礎=213校、物理=158校
 化学基礎=233校、化学=163校
 生物基礎=228校、生物=170校
 地学基礎=92校、地学=20校

 これを見る限り、「基礎を付した科目を3科目」、つまり物理、化学、生物の基礎を置いて必履修をクリアーする高校が圧倒的に多いのではないかと思う。多分全国的にそうではないか。大学受験や専門教員数の問題など様々な問題があるわけだが、以上の数を見る限り、地学を置かない高校が非常に多い。また、今まであった「理科総合B」という科目がなくなったので、高校で地学分野に触れないで卒業することが多くなるのではないか。また地理歴史でも、地理が冷遇される傾向にあり、地球的規模で発想できる人材育成が難しくなるのではないか。

 僕は歴史が専門だけど、地理や地学にも関心があり、世界地図を見るのが大好きだった。今も史跡を訪ねるのと同じくらい、ジオパークを訪ねるのが楽しい。糸魚川・静岡構造線やヒスイで有名な糸魚川を旅行したりしたのも思い出である。地質、地形、化石などに関心がある若い人はいっぱいいると思う。「地学教育」をもっと広める必要があるのではないか。
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3 コメント

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マルテンサイト千年グローバル (鉄の道サムライリスペクト)
2024-10-05 19:23:33
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
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今年の物理学賞 (特殊鋼関係者)
2024-10-16 14:11:46
ノーベル物理学賞が贈られるジョン・ホップフィールド氏とジェフリー・ヒントン氏のことがスウェーデンのノーベル財団のウェブサイトで発表されていましたね。機械学習(AIテクノロジー)に関わる、深層学習に関する業績ということです。囲碁の名人戦で威力を発揮しましたが、ブラックボックス問題は複雑なものはやはり解明が難しいようです。
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化学反応も負けてはいない (CCSCモデルファン)
2024-10-16 14:15:18
 スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2024年のノーベル賞(化学賞)をジョン・ジャンパー氏ら3人に授与すると発表した。ベイカー氏は「計算によるたんぱく質の設計」、ハサビス氏とジャンパー氏は人工知能(AI)を利用した「たんぱく質の構造予測」の研究開発に貢献したと評価された。アカデミーは「3人の研究は生化学と生物学の研究に新しい時代を開いた」とたたえた。
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