慶次郎縁側日記 『春の出来事』の冒頭文。
森口慶次郎は、両国米沢町の菓子屋、橘屋で末広おこしと初夢煎餅を買ったものの、そのあとの行先に迷った。これも春愁というのだろうか、誰かに会いたいのだが、誰に会うのも億劫なのである。
『春愁』?なんだその言葉。はじめて聞くわ、で、珍しく辞書で調べる。
「春の日になんとなくものうくなること。また、その思い。」
わあ、いい言葉だねえ、覚えていたら今度から使おうと思うくらい。
で、佐渡での薬局談義。
今回は珍しく雑貨屋マスターが参戦。
何の話の流れか、薬局ご主人と、
「帰って来れるなら1回あっちへ行ってみてえもんだな、どうなっとるか知りてえが」
「ほんとよね、認知も治るなら経験してみたいもんだわ、その時の自分の頭の中がどうなっとるのかしら」
ってなことを言っていたら、マスターがぼそっと、
「帰りてえかっちゃ」と。
「俺は逝ったら逝ってもう帰らんでもいいな、帰ってきてなんかおもせえことあるかっちゃ」
うん、別にそんなに面白いことはない。
「俺はもう何にもおもせえことないからさ、あんちゃんたちはそろそろだなと言う取るけど採りものも俺はそんなもん関係ねえしさ」
「そんなとこ行くぐれえなら、家でごろごろ寝とった方がいくらいいか」
食べ物にも興味なし。
「朝ご飯は食べえせんだろ、昼も残っとるもん食べりゃあ食べるけど、どうでも食べんならんことねえし、
夜も母さんが帰るのんが10時過ぎるから、自分で作るくらいなら水でも飲んで寝ようかなと思うが」
ほんとかさ、お孫さんの保育園送り迎えし、まだ現役で働き、薬局にきて毎日オロナミンC飲んで。
楽しそうじゃないのよ、なんて冷かして大笑い。
薬局ご主人
「こういう人に限って長生きするんだがさ」
と、ばっさり切り捨てる。
そんなこんなのマスター、あなたも春愁かしら。