8月後半にごろごろしながら読んだ小説。
これがけっこう怖いのよ。人間の深層心理をついているようでぞわぞわぞくぞくとくるの。。
3作品のタイトルが秀逸、そのものずばりの内容を表していて、
タイトルで内容を想像すれば本文は読まなくてもいいのじゃないかしらと思うくらい。
2冊が短編集『真実の10メートル手前』『噛みあわない会話と、ある過去について』
1冊は2段組みという今どき珍しい長篇『とめどなく囁く』
読後の後味がよくないことが共通していて、本来私は苦手なのだけれど、
一種の怖いもの見たさに共通する「でどうなっていくの」というストーリーの面白さがあって一気読み。
それでいながら、何となく物足りないな、の欲深さ。なんなのだろうね。
やっぱり読んだ後の「しみじみ」がないからかしら。私、好きだからねそれが。
『真実の10メートル手前 』
「真実の10メートル手前」会社倒産で失踪した女性を追う万智。女性が乗っている車まで10メートルに近づいた時、車の窓枠に目張りがしてあるのに気がつく。
「正義漢」人身事故発生後、万智は事件と気付き犯人を誘い込む。「人を線路に突き落とした感想はいかがですか?」
「恋累心中」高校生の心中事件と発火物事件。黄燐自殺を万智は化学教師が薬品残量を合わす為の自殺幇助とみる。
「名を刻む死」孤独死した老人は肩書きのある死を願う。
万智は言い放つ「田上良造は悪い人だから、ろくな死に方をしなかったのよ」
「ナイフを失われた思い出の中に」姪を殺害した16歳少年の証言は殺害を認めるが裏は無実で姉を庇う。
「綱渡りの成功例」土砂崩れで生還した老夫婦が生還し懺悔する。万智は死亡した隣人の家の冷蔵庫を使った秘密を知る。
太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、
それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。
『王とサーカス』後の6編を収録する垂涎の作品集。
太刀洗万智の魅力で読ませる短編集だな、と。ぞくっとは大刀洗万智そのもののからくるんだな、と。
『噛みあわない会話と、ある過去について』
「ナベちゃんのヨメ」「パッとしない子」「ママ・はは」「早穂とゆかり」の4編。
この短編集がいちばん怖い、ぞくっとする、ざわつく。辻村さん、こんな小説も書くんだとちょっと驚き。
2話と4話の「する側」「された側」の話。
自分はそんな気がなくて言ったりやったりしたことが、された側にとってはいつまでも覚えている不快な言動だった、
という話は私にも覚えがあるから恐ろしい。自分の発言が意図しない別の解釈を生み、
後で、当の本人から言われて「えっ?そんなつもりはなかったのに」は言い訳にもならない。
悪気はなくても、立場、見方が違うと捉え方は随分変わるから、
「悪気はなかったの」はもしかするといちばんたちの悪い言葉かもしれない。
美術教師の美穂には、有名人になった教え子がいる。彼の名は高輪佑。国民的アイドルグループの一員だ。しかし、美穂が覚えている小学校時代の彼は、おとなしくて地味な生徒だった――ある特別な思い出を除いて。今日、TV番組の収録で佑が美穂の働く小学校を訪れる。久しぶりの再会が彼女にもたらすものとは。
『とめどなく囁く』
久しぶりに桐野作品を読んだ。
桐野さんの小説って、えげつないといっていいのかしらえぐいと言った方がいいのかしら、
そんな印象を持っていたのだが、それがずいぶん弱まって長編の割に薄味な気がする。少し肩透かしを食った気分。
一番近くにいるのに誰よりも遠い。
海釣りに出たまま、二度と帰らなかった夫。
8年後、その姿が目撃される。そして、無言電話。
夫は生きていたのか。
ほんとうにそんなことがあるのかというこの小説と同じような体験をした友人がいる。
何の前触れもなくある日突然ご主人が帰らない、家を出たまま何年も帰らない。
ご主人のお母さんがよくしてくれたとはいえ、彼女はひとりで子育てと仕事を頑張った。
離婚を考え始めた頃、出て行ったときと同じく突然帰ってきたという。
何をどうとらえてどう考えたらいいのか、自分の存在は何だったのだろうか。
何もかもが拠りどころなく曖昧なままの怖さ。やはりざわっとする。
でもこの小説はどこか絵空事で、切羽詰まった主人公の心象が見えない気がするのは、舞台の設定のせいかしら、ね。
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