「私のここにいじわるの虫がいるのよ」
その人は自分の胸をたたきながら言いました。
ときどき私がお邪魔している化粧品屋のその人は、一人で96歳の父上を抱えながらお仕事をしています。高齢ながら、父上は身の回りのことは全部ご自分ででき、時には畑を打つこともあるそうです。
そんなに元気な父上なのに・・・
「この間も、父が久しぶりにとろろ汁を食べたいなあ、って言ったのよ。でも、私は客を送り出したばかりだったもんだから、父さん、そうご飯のことばかり言わんでくれや、私はよわっとるんだが、と言うてしもうて」
「言うてから、ああ、私はなんてこと言うたんだろ、ちょっと、そうだね、そんなら今度作らんかって、その一言が何で言えんかったんだろう」
私の中にいじわるの虫がおるんだがな、とおっしゃって。毎日一緒におると、時々そういうことがあるわ、と嘆かれてました。
私も同じ気持ちになることが多々あるから、ようーく分かって切なくなりました。
考えれば96歳だものね、そうなって当たり前よね、と父上との日々の暮らしのあれこれを自分に納得させて・・・
まだ父は、自分のことを自分でするから、ありがたいと思わなくては、と結ぶのですが、それでも、いじわるの虫が顔を出すのは止められないのです。
私が父に八つ当たりをするということも、そういうことなのです。
ほんと、なんともいえなく切ない、そして重い・・・そういう日々が続いているのです。
13日に95歳になる父にポーズを取ってもらいました。
「今日は32度もあるな」ととんでもない発言をするから、
「とうさん、そんなにあったら茹だるや。22度だが」と訂正すると、
「常識はずれなこと言うとるなあ」と苦笑していました。
ほんとだわ、とこちらも大笑い。
母のところに行った時、穏やかな顔をしていたので、
「かあさん、そんなに寝てばっかりおらんで、たまには父さんの世話をしたらどうだや」
と頼んだら、そのとたん、ふあああーーと大あくびをするので、それが返事かと笑ってしまいました。
受け入れるしかありません。そういうことで・・・