

原題は、"Er ist wieder da「彼が帰ってきた」"。
ティムール・ヴェルメシュが2012年に発表した風刺小説で、ベストセラーになったそうです。
私はコメディとして十分に楽しみましたが、映画の評価は、一口に言えない難しさと思います。
単純なコメディでは決してありませんし、ストーリーにリアリティがあるとは決して言えませんし、
社会風刺のシリアスな社会派的作品とも言えないからです。
1945年、遺体が発見されていませんがヒトラーはベルリンの地下防空壕内で自殺したと言われています。
そのヒトラーが、自殺の直前に現代にワープするという奇想天外の物語です。
ヒトラーに扮したマスッチとスタッフは、ベルリンやミュンヘン等の大都市を始めドイツ中を車で回り、
政治家や街を行き交う人々、近付いてくる人々と様々な交流する姿を撮影し、それらが映画の冒頭映し出されました。
生き返ったヒトラーをたまたま発見したのは、TV会社のリストラ直前の売れない社員ザヴァツキと言う男性でした。
彼は、帰ってきたヒトラーをメインにした制作を企画し、生き残りを託します。
ドイツでは、ヒトラーは口にしてはいけない絶対的禁句ですが、そのヒトラーを笑い飛ばすと言うストリーです。
多くの人々は、ヒトラーそっくりさんに会って、「ドッキリなの!?」みたいな感じで、「セクシーね」と言って、
ハグして一緒にカメラに収まったり、顔を見るのもイヤと拒絶したり……。
テレビ・インターネットの現代、ツイッターやフェイスブックやYOU-TUBEなど70年前と比較にならない宣伝媒体が豊富です。
それらは、人々の多様な考えの発表ツールとして大いに利用され、人々の多様な価値観と情報の拡散に貢献していますが、
あるサイトや出来事がいとも簡単に攻撃され、「炎上」したり、デマゴギーなども拡散したり、「煽動」の威力は、
ナチス時代をはるかに凌駕し、絶大です。
権力者がこの道具を巧妙に利用、操作していることは疑う余地がありません。
彼は、あっという間に「テレビ、マスコミ」の一大寵児になっていきます。

ザヴァツキがつきあい始めた女性は、ユダヤ人でした。彼女のおばあさんは痴呆症でしたが、本物のヒトラーと会うと、
彼女は、「正気」に戻り、彼を激しく拒絶し、攻撃するのでした。
この場面は、この映画最大のクライマックスで、私は大きな驚きと寒気を覚え、我に返えらされました。
ザヴァツキは、ヒトラーを殺そうと思うのですが、彼は捕らえられ、精神病院に送られるところで映画は終わるのでした。
そう現代のドイツでは、正気なのは少数者となってしまったかのようです。
ナチスは、ユダヤ人弾圧の前に、「精神障害者」や性的少数者、「身体的障害者」、「知的障害者」など社会的弱者と少数者を
捕らえ、人体実験や殺害を行いました。
この映画の最後は、まさに戻って来たナチスとヒトラーを暗示しているようです。
オーストリアではヨーロッパで初めての極右が大統領になりそうになり、アメリカでレイシストが大統領になり、
フランス・イタリアでも右翼勢力が台頭しています。
ドイツの哲学者ヘーゲルは、「1度目は悲劇として、2度目は茶番・喜劇として」の名言を残していますが、
ヒトラー・ナチス、ムッソリーニ・ファシズムは悲劇として、そして同じような悲劇は茶番では無く同じように悲劇として、
そして現代のソフトタッチのナチズム・ファシズムは、どんな化粧で現れるのでしょうか?
映画で、何かのSNSでアドルフ・ヒトラーのネームはすでに使われているとありました。何者かは?ですが。
