7月29日。この日は参議院議員選挙の投票日。私は期日前投票を済ませたので、それまでに東京に戻らなければならないということもなく、このまま鉄道の旅を続けることにする。
さて、この日の一番列車は直江津8時13分発の富山行き。寝台電車改造の419系である。こちらも、「今乗れるうちに乗っておきたい」車両の一つ。元々、「昼は座席車、夜は寝台車」というつくりだったためにシートがゆったりしており、走行中の揺れもほとんど感じないという贅沢な車両である。私の足が短いこともあり、靴を脱いで向かいのシートに足を伸ばすとほとんど寝そべった状態になる。
このままゆったり富山まで行ってしまいたい気もするが、ここは日本海沿いの快走を少しだけ楽しみ、昨日も通過したトンネルの中の駅・筒石で下車する。この列車から降りたのは私だけだったが、トンネル内のホームには駅員が出迎えてくれている。
さてここからがこの駅の特徴。長い階段を上がっていくのである。コンクリートむき出しの階段で、上から水滴が滴り落ちる。照明が明るいだけまだよい。トンネル駅の最たるものといえば上越線の土合駅の越後湯沢方面のホームだが、あちらのほうが照明が暗く、そのくせ階段が長い。あの階段は谷川岳に登る人たちのウォームアップのためにあると思っている。
階段を登りきり、ドアを開けると改札口に出る。切符売り場にはちゃんと駅員がいた。地下の係、地上の係というのがあるのだろうか。外への扉を開けると駅前広場があり、坂を上ると、この先海へと続く道に出る。人家は何軒もあるが道に出ている人はいない。山間のさびしい駅といえばさびしい駅だ。ふと、水上勉の「越後つついし親不知」という小説のタイトルを思い浮かべる。作品の詳しい筋は忘れたが、何だかもの悲しい話だったように記憶している。この、地名を並べたタイトルからそう連想させるのかな。そういえば昨日は親不知、そして今、「つついし」に来ている。
目の前には北陸自動車道のトンネルと橋脚。こうして見ると谷の深さにうなってしまう。高速道路は高架橋で一気に谷を越えるが、鉄道はこの谷底をトンネルで伝っている。この高さを、先ほどの階段で上ってきたのだ。
遠くに海が見えるがさすがにそこに行くまでには時間がかかりそうで、適当なところで駅に戻る。案内を見ると、この駅で乗車券または入場券を購入した人に、筒石駅の「入坑・入場証明書」というのを進呈するとある。乗車券は青春18を持っているので、機械発券の入場券を購入。ホームへと続く階段の写真を載せた証明書だ。国鉄型車両の運行や、各種入場券、証明書の発行など、JR西日本のこのあたり、なかなか鉄道ファン相手のサービスを行っている。うがった見方をすれば、「北陸新幹線」が金沢まで開通した時には北陸の鉄道網がどうなるかわからないから、今のうちにサービスしておこうということなのかもしれないが・・・・。
再び階段を降り、ホーム横の待合スペースに。外は朝からムシムシしていたが、このトンネルの中の温度計は19度。結構快適に過ごせる。
筒石9時18分の直江津行きで、来た道を戻る。続けて419系の寝台電車だ。この列車、ムーンライト信州~南小谷~糸魚川と抜けてつながる列車であり、そのためか汽車旅派らしき人が多い。直江津からバス代行につなぐか、ほくほく線に乗るか、長野に抜けるかといったところだろう。
私はそろそろ南下しようということで、直江津からは「妙高4号」の客となる。こちらも189系のかつて「あさま」で使用されていた特急型車両。カメラを構える汽車旅派の姿も多くみかける。ゆったりした気分で長野までの山越えの旅を楽しむ。曇っていて妙高の山々を見ることはできなかったが・・・・。(続く)