近鉄名古屋を早朝の急行列車で発つ。4両のクロスシート車はガラガラなのだが、それでも先ほどの「ムーンライトながら91号」から乗り継いだとおぼしく風体の客も混じる。名古屋から近鉄回りで関西に向かうか、あるいは近鉄線の乗り歩きか。そういえば、この秋にも養老線、伊賀線が地元主体の第三セクター線に切り替わるという話もある。
朝の濃尾平野を駆け抜け、木曽川、揖斐・長良川の長い鉄橋を渡ると三重県に入る。四日市で客が入れ替わり、この先、津や伊勢中川でも乗客の入れ替えがある。普段の平日なら早い時間の通勤快速的な役割を果たすのだろう。先ほどの夜行でほとんど眠っていないせいか、ところどころでウトウトとする。一時は、松阪で牛肉に思いを馳せた後に、伊勢市で途中下車して久しぶりの伊勢参宮・・・ということも頭をよぎったが、神様の前では失敬だがこのまま通り過ぎて鳥羽まで行ってしまおうと・・・・。
鳥羽着。・・・と、このまま、同じホームの前方に停まっていた賢島行きの普通列車に乗り継ぎ、隣の中之郷まで行く。そう、これから伊良湖まで行く伊勢湾フェリーに乗ろうというのである。伊勢湾フェリーも10年くらい前に一度乗っただけだ。鳥羽のフェリー乗り場は、鳥羽駅よりも一つ先の中之郷駅のほうが近い。夏休みのこととて早くから列をつくっているクルマの脇を抜け、乗船券売り場へ。鳥羽8時10分発の便を押さえる。
出航まで時間があるので、早くから開いていたカウンターで伊勢うどんを注文。太めのうどんに、独特の生醤油のからんだ味を楽しむのも久しぶりだ。その後で、東海地方に来たのだからと中日新聞を購入し、同じ売店で伊勢地方限定という「神都麦酒」を購入。明治時代の味を復古させたとかで、確かに濃い味わい。伊勢参宮が一生のイベントであった時代ではなおのこと、苦いけれどハイカラな味として大いにもてはやされたことであろう。
さて、真夏の青空が広がる中、定刻に鳥羽を出航。結局思ったほど多くの乗客はなく、船内のイス席や桟敷席もゆったりと使われる程度。ミキモト真珠島の脇を抜けると、右手に菅島、左手に長い答志島が横たわる。この二つの島が鳥羽の入り江を構成しており、そのために真珠の養殖などに向くことになったのだろう。パンフレットにはこのあたりでイルカの回遊が見られるとあったが、残念ながらこの日はその気配すらもまったく感じなかった。
青い空に白い入道雲。夏の空だ。
そうするうちに伊勢湾の入り口にさしかかり、伊勢側と三河側で波の向きが変わるのを見る。別にここが両地方の境界線を争っている区間というわけではないだろうが、かすかに前方に渥美半島や、ともすれば知多半島、その先端にあるセントレア中部国際空港の様子も見えてくる。
だんだんと渥美半島の姿が大きくなり、岬の先端にある伊良湖岬の灯台を見る。灯台のあたりは遊歩道コースになっているが、暑さのせいか歩いている人の姿はほとんど見えない。
1時間弱の航海を終え、伊良湖岬のフェリーのりば兼道の駅に到着。折り返しの便を待つクルマと人でごった返している。
この後はフェリーに接続するバスで、豊橋方面に向かう・・・・。(続く)