まだ夜明け前の盛岡駅に出る。これから乗るのは盛岡5時22分発の田沢湖線大曲行きである。秋田新幹線が走るこの田沢湖線であるが、鈍行列車の本数は実に少なく、盛岡から県境を越えて田沢湖まで行くのは1日わずか4本。未乗車区間である北上線ほっとゆだ~横手に乗るのが今日の目的であるが、横手側から乗り、ほっとゆだでも温泉につかり、その日のうちに「青春18」1枚で帰るということを考えた場合に、このプランということになったのだ。
その田沢湖線、前日から何度も乗った701系であるが、なぜかクロスシートとロングシートが交互に並ぶというつくり。聞けばこの線オリジナルの仕様という。ただ、なぜ田沢湖線だけなのだろう。こういうつくりならば東北本線に導入してもよさそうに思うのだが、よくわからない。始発電車のこととて乗客もほとんどおらず、ボックス席を独り占めにする。
昨夜からまた新たに雪が積もったようで、雪明かりの中を淡々と進む。赤渕から県境越えとなり、田沢湖着。20分ほど停車するので一度外に出たが、本降りの雪の前にすぐに退散。
そろそろ空が白みだした。小さな駅に停まっていくが、日曜日だからだろうか乗客もほとんどいない。それでも、どんな小さな駅でも保線の職員か地元の人だかが出て、ホームの雪掻きをしている光景に出会う。こうした心遣いというのを忘れてはならないと思う。
大曲からは湯沢行きの列車に乗り継ぎ、横手を目指す。やってきた車両は前面も横扉も雪が固まっている。また線路上も雪に覆われており、一見線路があるようには見えないのだが、それでも車両で雪を掻き分けつつ、きちんと線路の上を走る。見ようによっては不思議なものである。こうした本格的な雪景色の中を走るのも私にとっては久しぶりのこと。
横手着。ここですぐ北上線に乗り継いでもよかったのだが、かまくらでも有名な雪の町に来たのだからということで、1本列車を落とす。それまでの間、町歩きをしようというものである。
・・・ということで駅前に出たものの、実に変わりやすい天候。少し晴れ間が見えたと思ったらすぐに雲に覆われ、強い風と粉雪に見舞われたかと思えばすぐに穏やかになる・・・という繰り返し。その中を何を思ってか、雪中行軍とする。途中で地元の商店街の皆さんが総出で歩道の雪掻きをしていたり、ブルドーザーが道路の雪をさらって路肩に捨てていたりと、雪国の朝の光景を見ることができる。これが一日だけではなく、冬の間ほとんど毎日続くのである。まったく余計な仕事であろう。
そんな中、小高い丘の上にある横手城(ちなみに雪のため頂上到達は断念・・・・もっとも冬季休館だったのだが)を中心とした雪の城下町を歩く。昔の学校「日新館」に出会ったり、本館が有形文化財に指定されている平源旅館の建物を見たりと、寒い中でも味わいのある町での一時を過ごす。また横手といえばかまくらということで、「かまくら館」という、町の文化センターや観光案内所を兼ねた建物に行く。ここではマイナス10度の室内にかまくらをこしらえて年中見られるとのことだが、これまでにおそらくマイナスの町中を行軍してきた身にとってはマイナス10度もさほどの寒さと感じなかった。夏の暑い時ならマイナス10度も異次元の世界ということで面白いのだろうが・・・。ちなみに本物のかまくら祭りも一ヵ月後ということで、何とも中途半端な時期に来たものである。
さてようやく北上線の時間である。今は何も実っていないブドウ畑を抜け、さらに雪深い区間に入る。聞こえるのは気動車のエンジン音のみ。こんなところでもホームの雪掻きはされているし、ポイントのあたりでは保線の職員が出てポイント保護の作業を行っている。本当に頭が下がる。
ほっとゆだ着。ここまで来て北上線は完乗となる。次の列車まで2時間、ゆだ錦秋湖の冬の景色を楽しんだ後で駅構内の温泉・・・ということを思っていたのだが、駅から外は吹雪で全くといっていいほど視界が効かない。これでは外歩きをするだけ無謀ということで断念し、駅前の観光案内所兼レストランでまずは昼食とする。古代米と山菜の田舎定食に、雪見酒ということで両関の冷酒をつける。これほどの雪だが自動車の往来はそこそこある。よく雪の中を運転できるものだと感心しながら一杯やるうちに、窓ガラスも曇ってきた。
再び駅に戻り、駅の中の温泉に浸かる。シャンプーその他は自分で用意しなければならないが、250円でゆったりできるのはありがたい。時間もあることなのでしばしのんびり。
ようやく次の北上行きの時間となった。ゆだ錦秋湖もすっかり凍結しているようで雪景色もしばし楽しめたが、北上まで出ると積雪もほとんどなく、また青空が戻ってきた。あとはここからひたすらに乗り継いで東京まで戻るだけである・・・・。