ETC利用者の高速道路土日割引は、四国に行く場合に「おトク感」が増すのではないだろうか。本州から四国へ渡る3ルートの橋の料金は別にかかるにせよ、「上限1000円」の効果は大きいものがある。
ということで、尼崎を早朝に出発し、高速道路を乗り継いでやってきたのは松山は坊っちゃんスタジアム。ここで行われるプロ野球独立リーグ・四国九州アイランドリーグの愛媛マンダリンパイレーツ対長崎セインツの一戦を観戦しようというのである。
四国でもっとも立派な球場といってもいい坊っちゃんスタジアム。その開放感から、私の好きな球場の一つである。
今年になって地元の関西独立リーグを観たり、昨年までは北陸・上信越のBCリーグを観たり、結構あちこちの球場に現れているのだが、アイランドリーグの公式戦の観戦は4年前の初年度以来になる。坊っちゃんスタジアムもその年以来だし、九州の2チームはまだ見たことがない。地元関西が苦しむ中、日本の独立リーグのさきがけである四国・九州の試合で何かヒントになるものはないかと思い、久しぶりに足を運んでみることにした。
この日は松山~東京便の増便をPRするための「JALシリーズ」ということで、試合前にはJALの松山支店から機内食用の即席めんの進呈式が行われたり、入場時に配布されたチラシの番号で航空券やホテル宿泊券、ディズニーのぬいぐるみの抽選があったりというイベントが行われた。やはりこういうスポンサーがつくことも必要で、試合の場が格好のPRになるような工夫というのが必要である。松山~東京の航空券が当たったらどうしようかとも思ったが、それは無駄な心配に終わった。
あとは、グッズ販売の強化だろうか。同じ品目でもデザインや色を変えるなどしてバリエーションを増やしており、選ぶ側の楽しみにもなっている。関西の各球団も少しずつ選手ごとのグッズを出すように力を入れてきているが、少なくともこの球場での充実度に比べればまだまだ。
さて、試合である。愛媛は今年入団の能登原、現在リーグ首位の長崎は酒井という両右腕が先発。長崎の先発メンバーには、昨年はBCリーグの新潟でプレーしていた4番・末次、7番・根鈴(ねれい)がいる。いずれも昨年の新潟の前期地区優勝に貢献した、打力が売りの選手なのだが、昨年限りでチームを去っている。どうしたのかと思っていたが、ここにいたのか。
特に根鈴はアメリカのマイナーリーグをはじめ、世界各地の独立リーグを渡り歩いた選手。こういう経歴の持ち主というのもなかなかいないのではないだろうか。ごつい体格と、私と同じ1973年生まれということもあり、個人的にがんばれと応援したくなる選手である。
序盤は両チームともランナーを出すものの、多彩な球種を持つ能登原、酒井がそれぞれピンチをしのぐ。酒井が3者連続で見逃し三振を奪えば、能登原も根鈴から空振り三振を奪うなど、なかなかのマウンドさばきである。
先制したのは長崎。主砲の末次がレフト越えの二塁打でチャンスをつくり、6番・松井のボテボテのゴロが一・二塁間を抜け生還。
愛媛の反撃は6回。1番・檜垣が内野安打で出塁し、2番・寺嶋が送りバントを試みる。しかしフェアグラウンドに決めることができず、ここで強攻に切り替え。これが当たって無死一・二塁。ここで3番・長崎がレフト線へのヒット。檜垣帰って1対1の同点。ところが長崎のレフト・慧陽(けいよう=下の名前での登録)がクッションボールの処理を誤り、打球がレフトを転々とする。この間に一塁ランナーの寺嶋に続き、打った長崎までが一気にホームイン。スタンドからは「ホームランや!」という歓声があがる(寺嶋、長崎の2人のホームインはエラーによるものという記録になったようだ)。うーん、こんな展開ってどうなんだろう。
ともあれこれで愛媛が3対1と逆転に成功。7回表に長崎も9番・吉川のタイムリーで1点差に迫るが、ここで愛媛は能登原から、安定感ある中継ぎの入野(いりの)に交代。3対2で9回表に入る。
愛媛の9回のマウンドは抑えの浦川。愛媛ファンとしてはこれで勝利を信じて疑わないだろうし、私も「なかなか面白い投手戦を見たな」という感想だった。でも「勝負は下駄を履くまでわからない」。5月に観戦した関西独立リーグの試合では2日連続で「9回表裏の大攻防」というのを見ているだけに・・・。
この回先頭の松井がレフト線へのヒット。レフトの打球の処理が遅いとみるや、一気に二塁まで進む。この後死球もあって一死一・三塁。ここで先ほどタイムリーの吉川が、今度は左中間に大きな当たり。2人のランナーが返り、これで4対3と逆転に成功。大喜びの長崎ベンチに対し、愛媛の選手と一塁側のファンからは大きなため息。目前の勝利がするりと逃げていった。守護神でもこういうことがあるのだ。
ただ、野球の神様はなかなか下駄を履かせてくれない。9回裏、長崎のマウンドにはこれまで投げ続けた酒井に変えて、こちらも抑えの上村。いかにも「アメリカ仕込みですねん」という感じの投球フォームで、この投手も根鈴と同じように、あちらこちらの国のリーグや独立リーグを渡り歩いたという。
一死後、6番・大津も一塁への緩いゴロ。一塁・林がつかんでベースカバーの上村にトスするが、上村の足が離れてセーフの判定。これで首の皮一枚生き残り、続く7番・高田が右中間への三塁打。これで4対4の同点となり、なおも一死三塁とサヨナラのチャンス。一旦はため息の一塁側も大騒ぎとなる。
その後、2四球(敬遠含む)で二死満塁となり、打席には2番・寺嶋。近くのファンから「寺嶋はダメだよー!」という声があがる。確かにピリッとしないプレーがあったからな・・・・。それでも、そういうことは本人が一番気にしているだろうし、愛媛の沖監督もそこにかけたのだろう。
寺嶋の打球はセカンドとライトの間へ。ポテンヒットでサヨナラか!とファンが総立ちになった瞬間、そこには巨体をスライディングさせたライト・末次の姿があった。ボールは確かにキャッチされており、これで3アウト。延長戦は行われないルールなので、これで引き分けということになった。
試合終了後、両チームの選手が挨拶を行ったが、いずれのチームの選手からも無念そうな表情が伝わってきた。愛媛の応援団は「負けたわけではありません!頑張ったじゃないですか」と言っていたが、9回裏に押し切れなかったのかという落胆が大きいようだ。「やっぱ首位のチームはそう簡単には負けんわ」という会話も。
入場口での「お見送り」でも、引き分けに終わった選手を励ますファンたちの姿が多く見られた。私も何人かの選手にサインしてもらったが、残念そうな表情が並んでいたように思えた。
さて、今日は逆転につぐ逆転で最後まで競ったことも含めて、球団、ボランティアスタッフ、そしてファンが一体となって応援する光景が観られたのが印象的だった。後は、リピーターだけではなく新規の観客をいかにして開拓するか、スポンサー集めにどうつなげていくかということだろう。それは、企業の多寡というよりは「地元のおらがチーム」の意識が高い地域かどうかによるところが大きいだろう。それが関西とその他のリーグの差になってしまっている。
関西独立リーグの関係者も、これから自立を目指すのであれば他リーグの試合に足を運んでみる(当然やっているとは思うが)ことでヒントを得られるところがあるのではないだろうか。熱い時間を過ごした後で、思ってみたことである・・・・。
(おまけ)
この試合中、愛媛のスポンサーを紹介するのに、大相撲の懸賞の垂れ幕が土俵を回るように、スポンサー名が書かれた紙を子どもたちが持ってグラウンドを回っていた。その中に「石毛野球塾」があった。「石毛」って、あの石毛宏典氏のことだろうか。四国ではギクシャクし、関西では名前に泥を塗られと災難続きのようだが、こうして名前が出るところを見ると、まだまだ意気盛んのようだ。