オリックス・バファローズが初優勝を果たした今年の交流戦。これで交流戦6年間は6度ともパ・リーグのチームが優勝ということになり、「実力のパ」を見せつけることができた。パ・リーグのファンとしては実にたまらない。一方でセ・リーグの試合、特にヤクルト対横浜戦などというのは、今後プロの試合としてファンを喜ばせられる魅力あるカードになるのかどうか、人事ながら心配になってしまう。
とはいうものの、まだまだ世間的にはセ・リーグのほうがメジャーでパ・リーグはマイナーなイメージがあるのも確か。ことマスコミの取り扱いを見る限りでは北海道、仙台、九州を除けばまだまだ巨人に阪神が中心である。いつぞやの球界再編話でも、決まって不人気のパ・リーグが解散するという軸で進んでいたものである(事実その中で、大阪近鉄バファローズは合併で消滅した)。
ちょうどその球界再編の時期に書かれ、今年になって文庫本で発行された一冊。それが『南海ホークスがあったころ 野球ファンとパ・リーグの文化史』(永井良和、橋爪紳也著、河出書房新社刊)である。単行本ではなく、5年後の文庫本として初めて読むことになった。
少年の頃から南海ファンであった両者が、南海~ダイエーと移り変わる球団の歴史を軸に、球団だけではなくその舞台であったスタジアム、そして球団を応援するファンの姿を追いかけたものである。当然ながら記述の大半は南海ホークス、そして大阪球場にまつわることであるが、ファンとしてのイレコミ情報にとどまるのではなく、多くの取材、文献を参考にしながら描いた一種の社会論である。野球と都市の関わりという意味で。
藤井寺で育ち、プロの野球といえば父親に藤井寺球場に連れて行ってもらったことから近鉄ファンとなった私にとっては、舞台こそ違え同じ「関西の、パ・リーグの野球文化」の描写には「そういえばそんなんあった」「懐かしいなあ」と思わせるものが多い。阪神の人気というのは全く違う世界だし、オリックス・バファローズにしても当時のパの球団に比べればドロドロさがあるというわけではない。
私が「なるほど、これは社会論だ」と思ったのは、一リーグ時代~セ・パ両リーグが誕生する過程で参入した企業についてのくだり。プロに参入したのは「新聞社と鉄道」であったが、それがいずれも「メディア」という捉え方である。新聞はともかく鉄道がメディアというのも意外であったが、「新聞は、情報のほうを動かして人に届ける、あるいは離れて存在する人と人とをつなぐメディア」である一方、「コミュニケーションの主体である人間のほうを動かして、現地の情報に接触させるのが鉄道というメディア」と言われればなるほどなと思う。そして新聞系メディアを中心としたセ・リーグと、鉄道系メディアを中心としたパ・リーグという図式の中で、情報伝播力に優れた新聞系セ・リーグが力を伸ばしたというものである。そして、ファンの広がりが頭打ちとなった鉄道系球団が相次いで球団運営から撤退することに・・・。
ただその当時から見て今はどうだろうか。確かに鉄道会社では西武と阪神のみになったが、一方ではソフトバンクや楽天という新たなIT系メディアという企業が参入している。また札幌、仙台にも本拠地が広がり、あるいは地域密着型として四国・九州と北信越・北陸にも独立リーグが誕生し、地元からの支持を得ている(ここには、関西・東海系のリーグは含みません)。どこの球場に行っても「ファンサービス」というのを意識したイベントを行っているし、ファンの応援様式もさまざま。
その一方で、時折あのガラガラで野次もよく通った「球場」の雰囲気を思い出して懐かしく思うのも複雑な気持ちである。そんなことを思いながら、またあちこちの球場めぐり、そして球場の「跡地」にも訪れてみたいものである・・・・。