宍道から備後落合まで木次線に乗車。前の記事では途中の出雲横田で車両切り離しのために21分停車したところまで来た。ここからが後半戦。車両も1両となり、後の車両に乗っていた人たちも含めて立ち客も出る賑わいとなった。もっとも青春18の時季だけの光景だろうが。
出雲横田の次は八川。ここで下車する人がいる。地元の人ではなくて青春18の客である。八川の木造駅舎目当てか、駅前の八川そば目当てか。
八川の次が出雲坂根だが、周りが少しずつ山深くなる中、時速25キロ区間の中をゆっくりと走る。出雲横田からこの先が冬になると運休することが多い区間である。この冬もしばしば運休しており、今回乗車の直前、2月18日~2月28日の期間も運転を見合わせていた。春の青春18の時季に合わせたかのようである。
線路際に見覚えのある施設がある。「舞茸奥出雲」の直売所。11月に庄原市のツアーで出雲坂根のスイッチバックを下った後、駅に先回りしていたバスに急き立てられるように乗せられてやってきたのがこちら。お買い物タイムの確保と、備後庄原駅からの帰りの高速バスの時間との兼ね合いで急き立てる形ではあったが、買った舞茸は帰宅後に美味しくいただけたし、敷地では「延命水」を汲むことができた。また、「延命水」と舞茸、シイタケで作っただし醤油も、和風料理の味付けに活躍した。
舞茸奥出雲から少し進み、出雲坂根に到着。ありがたいことにここでも20分ほど停車する。別に列車の行き違いがあるわけでもなく、これも青春18の客に合わせたダイヤかなと思う。
三段式スイッチバックの前にまずは行き止まりの駅に入る形で、駅や車両の撮影タイムとなる。また、駅舎の脇に設けられた「延命水」を待ちかねる客も多い。私も空にしたペットボトルを持って1本分汲む。何と言うか、独特の味がするんですな。
「延命水」は道路の向かい側にも水汲み場があり、流出量はこちらのほうが多い。地元の人たちがクルマにポリタンクを載せて汲みに来るのはこちらである。
発車時刻となり、進行方向が変わって三段式スイッチバックの二段目に入る。列車によってはスイッチバックの解説が入ることもあるそうだが、この列車に関してはスイッチバックなんて言わずもがなの客ばかりと見たか、淡々と上って行く。二段目の行き止まりまで走り、運転手が再び運転台を移動して三段目に挑む。こうやってジグザグに進むのは、やはり上り勾配のほうが見ごたえがあるように思えた。
元々、木次線はたたら製鉄の資材運搬を目的として木次から宍道まで敷かれた簸上鉄道が前身で、その先は国有鉄道として建設された歴史がある。だから八川から出雲坂根を経たほうがその歴史をたどるようだし、「この勾配をクリアするためにスイッチバック形式になったんですよ」ということがより実感できる。
三段目を進むと、右手には「おろちループ」が見えてくる。右手側の窓からカメラ、スマホが向けられる。出雲坂根から三井野原の区間では、1983年に列車が転落する事故が起きた。乗客乗員は救出されて死者はなかったが、転落した気動車は回収することができずにそのまま廃車となった。その後、10年以上放置された(国道の工事に合わせて回収された)とも、今も埋められたままとも言われている。庄原市ツアーの時に備後落合駅で話を聞いたボランティアガイドの方は「埋められたまま」説だが、実際はどちらだろう。
三井野原に到着。ここで下車する人がいる。スイッチバックを折り返すのだろうか。単に折り返すだけならこの先備後落合まで行っても一緒だが、そこは中国地方で最も高い位置にある駅の途中下車目当てなのだろう。単に乗るだけではない木次線の楽しみがそれぞれにありそうだ。
この先、時速25キロの区間を挟みながらゆっくり進み、14時33分、備後落合に到着。この時間が、備後落合が一日でもっとも、いや唯一賑わう時間帯である。
備後落合は芸備線の三次からの列車、新見からの列車、そして木次線の列車が「落ち合う」駅であるが、3方向の列車が一同に会するのはこの時間だけ。この先、木次線の折り返しは14時41分発、三次行きは14時43分発、新見行きは14時38分発と、数分おきに離れていく。木次線ホームから向かいのホームに行く時、乗り換え客を誘導するボランティアガイドの永橋さんの姿があった。
さて、広島に帰るなら14時43分発の三次行きに乗ればいい。ただ、まだ時間はある。同じホームには新見行きも停まっている。芸備線の備後落合~新見(正しくは備中神代までなのだが)も中国山地のローカル線にあって存続が危ぶまれている区間だ。こちらも久しく乗っていない路線だし、数時間帰宅するのが遅くなるだけなら、この機会に乗ってみようか。
木次線の列車ほどではないが、三次からの列車の先客たちで席もほどよく埋まっていて、ロングシートに陣取る。この先新見まで長時間停車の駅もないが、久しぶりの区間を楽しむことにする・・・。