ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

偏差値がなんでぃ!!

2010年01月20日 | 友達とわたし
ただ今職探し真っただ中のタイソン、ちゃんと食べられてるのかしらん?と心配性のおかんは、合わせに来てくれるのだからとカルビ丼と味噌汁を作りました。
うちの旦那は、「そんな、毎回毎回ご飯作って、そういうもんやと思たら後がしんどなるんちゃう?それに、彼はまうみの息子ちゃうねんから」とご機嫌ななめ。
確かに、彼はわたしの息子じゃござんせん。けれども、失業していて、たまたまやって来る時間がお昼時なんやから、別にそんなカリカリせんでもええんちゃう?

フランクのヴァイオリンソナタ、第一楽章。これが今日の練習の曲。頑張ってなんとか通しで弾けるようにはしたけれど、やっぱりまだまだ……先は長いです。
憧れの第四楽章も、はじめの5ページだけ一緒に演奏してもらって、あとの3分の2の8ページはわたしの仕上がり待ち。
3月の終わりにあるオーディションまでには、なんとか弾けるようにしないと!でも近道は無いしなあ。とにかく少しずつ少しずつ時間をかけるしかないのです。

練習が一区切りして、わたしは台所に、タイソンはカルロス氏の楽譜を手に取っては大騒ぎ。台所にいちいち持って来ては、「すごいすごい!」を連発。
さっそくいろいろと弾いていました。なんでそんなん初見でパラパラ弾けんねん?!包丁を持つ手にちょいと力が入ってしまいました。ハハハ。
まだ心持ち不機嫌な旦那も上から下りてきて、3人一緒に丼を食べ、食後のお茶を飲んでいる時に、Tがやっと起きて下りてきました。

2才違いの男の子同士、しかも就職活動中。分野が違っても(タイソンはファイナンス、Tはコンピュータープログラミング)話が弾まないわけがありません。
でも、この時期の2年の差は大きい……ふたりの会話を聞いていてしみじみ思いました。
一番最初の仕事を得る時が最も難しかった、とタイソン。面接を受けても何一つ自信が無かったし、自分がどうなるのかも全くわからなかった。
けれども、一旦仕事を得て、とりあえず働き出し、目の前の小さな世界だけであっても自分がそこに身を置いた経験は大きい。
うんうん、と頷きながら話を聞くT。
「でも、ボクの偏差値はあまり良くなくて、それでほとんどの会社は雇ってくれないと思う」とTが言った途端、
「それは全くナンセンス!偏差値はその人をなにも語ってくれないじゃないか。すごく優れた能力を証明してくれないじゃないか」
「でも、会社の応募要項の所に、偏差値○○○点以上の人って書いてあるけど」
「それが?」
「それ以下の者は応募できないんじゃないの?」
「ばかな……。ボクの友達は、ほとんどがそれ以下で、中にはとんでもなく低いヤツもいるけど、おかまい無しに応募して雇ってもらってるよ。その、特に、とんでもなく低いヤツはね、同時にとんでもなく素晴らしいプログラマーなんだ。だから雇われた」
「それはでも、特別な例で……」
「違う違う、Tは間違ってる!自分で先に線を引いてどうする!線は向こうに引かせたらいい。まずは会社の門を、強い意志をこめて握った拳で叩く!向こうに扉を開けさせて、自分のことをしっかり見てもらって、後は向こうが決めるのを待てばいい」
「……」
「ボクにTの履歴書を送って。知り合いにフェイスブックやグーグルで働いてる子がいるから、なにか役立てるかもしれないからね」
「そ、そ、そんなおっきな会社……」
「なんで?ただの会社じゃん」
「そこは特に偏差値にうるさかったような気がする」
「じゃあ、書かなかったらいいじゃん」
「え?……」
「それで、なぜ書かなかったかって聞かれたら、実はボクは、これこれこういうことに興味があってそれに集中しました。なので、その分野はとても優れていますが、それに費やした時間とエネルギーがあまりに大きくて、偏差値を上げるまでには至りませんでしたって話す。そしたらそこで、君の人物像を聞いてもらえるチャンスが生まれる。なんでも物は考えよう、やりようがあるんだから」

なんともたくましい25才。偏差値で凹みがちだったTに、少しはそのたくましさが吹き込まれたことを願ってやみません。

今日は練習に来たのか、悩める就職活動家を励ましに来たのか、なんだか訳のわからないタイソンなのでした。さんきゅ!

コメント (26)
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