常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

狐の話

2012年09月10日 | 日記


狐が人をたぶらかす話は、たくさんある。「今昔物語」でてくる話は、ことのほか有名である。それだけ、人の暮らしに狐がかかわり、人が狐の超能力を信じていた証しかも知れない。

京に住んでいた雑色(下男)の妻が、夕方買い物に出かけた。ところが、近所での買い物であるのに、なかなか帰ってこないので、「なにかあったのか」と夫が心配していると妻が帰ってきた。すると、ほどなく妻と寸分違わぬそっくりな女が入ってきた。夫は驚いて、「どちらかが、狐が化けたのだろう」と思ったが、どちらが本物か区別がつかない。

夫は思案のあまり、後から入ってきたのが狐に違いないと見当をつけ、刀を切りつけた。その妻は、「こなさん何をする。わしじゃぞえ、わしじゃぞえ」と泣いて逃げ惑う。それでは先に入ってきたのが狐かと、切りつける。この女もまた、「こなさんなにをする。わしじゃぞえ、わしじゃぞえ」と同じように泣き叫ぶ。ああだ、こうだと大さわぎをするうち、先に入ってきたもが怪しいと取り押さえると、その女はいうにいわれぬ臭い小便を夫にひっかけた。ひるんで手を緩めると、女は狐にかえって、「こうこう」と鳴いて、開いていた戸口から逃げていった。

こんな場面にじっさいにめぐりあうと、どうふるまうだろう。呆然として、急な思慮もおぼつかないのが、正直なところであろう。『遠野物語』には、狐と相撲を取った話がある。

菊蔵という男が、嫁いだ姉の家に行ってご馳走になり、お土産に餅を貰って懐に入れて帰ってくると、愛宕山の近くで酒飲み友達の藤七に会った。藤七はにこにこして草むらをさし、ここで相撲をとろう、と誘った。いいだろうと、二人は組み合ったが、藤七はいかにも弱く、軽く自由に抱えられては投げられるので、面白くて3番取った。藤七がいうには、きょうはとても敵わない、もう行こうといって別れた。

菊蔵は4、5間行ってから餅がなくなっているのに気づいた。相撲を取った場所へ戻って探しても見つからない。さては、狐に化かされたと感づいたが、人に笑われそうなので話をしなかった。4,5日経って藤七に話したところ、何で相撲など取るものか、その日は浜に行っていたぞ、云われいよいよ狐の仕業と分かったが外聞を恥じてかくしていた。だが、その年の正月に、村人が集まって話し興じているうちに、狐の話になり、「実は・・」と藤七が打ち明けると、皆から大笑いをされた。

狐が化けるという俗信が広まると、これを逆手にとって騙す人間が現われるから、油断できない。江戸牛込の赤城神社の門前に、名物の油揚げを商う店があった。

この店に人品いやしからぬ侍が来て、油揚げを200文買うと、椅子にかけてあっという間に食べたしまった。それから20日ほどたって、また現われて油揚げを100文分食べて帰った。不思議に思った亭主が、次に侍が来たとき、「お侍さまほど油揚げの好きな方はおりません」と言うと、「拙者は油揚げしか食わない。江戸はおろか日本中の油揚げを食っているがこの店のが一番だ」といい、住所を聞いてもぼかすので、亭主はこの侍が稲荷神に違いないと思い込んでしまった。

その年の暮れになって侍が現われて言うには、
「それがしも官職に移動があって江戸を立つことになったが、路用が少し足りないので延期している」と打ち明けた。亭主が用立てを申し出たが、なかなか遠慮して受けない。やっと15両を借り、証文にと紫の袱紗に包んだものを渡し、5日後に戻ると言って去っていった。5日経っても、10日経っても戻ってこないので、袱紗を開けてみると石だったので、まんまと騙されていることがわかった。

なにやら、今どきの「おれおれ詐欺」にも似た騙しのテクニックだ。人の信心につけこんでいるのは許せない。昔も今も、「詐欺にはご注意あれ」、というところか。

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