久しぶりに、秋空のきれいな雲を見た。すじ雲またはきぬ雲と呼ばれる。雲は偏西風に乗って、刻々と姿を変える。小一時間も経たないうちに、北西の空にいわし雲が現われる。午後になって、おぼろ雲が空を覆い、暗くなった。予報では、夜にかけて雨ということだから、雲と天気には密接な繋がりがあることが分かる。
朝、この絹糸のような雲をみると、碧空はどこまでも青く、身体がその中に吸い込まれそうな錯覚におちいる。散歩の足は軽やかで、疲れを覚えることもなく歩きつづけられる。
鰯雲動くよ塔を見てあれば 山口 波津女
先日採ってきた桜シメジと畑シメジに、シイタケと乾燥マイタケを加えて、妻がキノコご飯を作ってくれた。味噌汁には、アミタケが入れてある。どれもが、香り高い秋の味覚である。畑から収穫した枝豆が笊にいっぱい。残暑に苦しめられたぶん、秋の香りが癒してくれる。
もうひとつ、秋を感じさせるものは秋ナスである。秋ナスは嫁に食わすな、という諺もある。これは、ナスが冷えの食物で、女性は子宮を傷める原因になるという理屈だが、実は意地悪な姑が、嫁をいびる口実ではないかと勘ぐりたくなる。それほど、引き締まった秋ナスは、パリッとした歯ごたえでおいしい。
キノコとナスの相性がいいのは、ナスのなかにキノコのおいしさをしっかりと閉じ込めることができるからではないだろうか。
秋茄子をうましと噛みぬ老いたりや 中山 一庭人
この記事を書いているうちに、おぼろ雲で暗くなった空から沛然と雨が落ちてきた。やはり秋の空は変わりやすい。