牛蒡の葉がこんなに大きくなるとは。秋が深まってきたので、牛蒡掘りに畑に出かけた。春から夏の初め、いじけたようだった牛蒡の葉は、肩口に届きそうに成長している。鎌で葉を切り取って、スコップで牛蒡の根を傷つけないように慎重に土を掘り下げる。6、70センチ掘ったところで柄を動かして見る。びくともしない。反対の方角からスコップを入れて更に掘る。小さい牛蒡が抜けてくるが、本命の太い牛蒡はまだ動かない。首のあたりから汗がふきだしてくる。
太い牛蒡の下を掘るがまだ抜けそうにない。力を入れて引き抜く。ぼきんと、音がすると土のなかに先の方をのこしたまま抜けてくる。直径7センチほどの太い牛蒡が姿をみせる。鎌の背でトントンと叩いて土を落とす。すぐに皮がむけてくる瑞々しさだ。5、6株ほど掘ったところで、今日の作業はここまで。疲れてしまった。それでも、米の袋に入れてみると、15kほどもある収穫であった。
夜、妻が人参と合わせてキンピラ牛蒡を作る。汗をかいて掘り出した分、牛蒡がおいしく感じられる。自分で野菜作りをする醍醐味だ。
辰巳浜子の『料理歳時記』の牛蒡の項を読んでみる。
この本は昭和30年代の後半から40年代の前半に雑誌に連載されたものだから当時の世相が分かる。その頃サラリーマンが通うバーのママさんが、キンピラ牛蒡やヒジキの煮物を酒のつまみに出しているのを皮肉っている。こんな家庭的な料理を出したのでは、男は里心がついて家に帰ってしまいそうなものだが、家庭では奥さんが新しがってチーズを食卓にならべて悦に入っている。漫画のさざえさんの一こまにもなりそうな情景である。
辰巳浜子が酒場でも引き立つ牛蒡のつまみを紹介している。
「細い牛蒡を選んで紙のごとく薄く細く笹がきにしましょう。水にさらして、(2回だけ)よく水を切ってつんもり小鉢に盛り、花かつお(手かき)、を盛り合わせ、食べるときちょっとお醤油をかけます。日本酒、ビール、洋酒どちらにも万能です。
もうひとつ、ミシン針ぐらいの太さに切って、水にさらして水をよくきり、メリケン粉をふるいかけながら、ほんの15、6本まとめて温度の低い油でパリッと折れるようにからりと揚げ、塩をふりかけます。ポテトチップなんか足元にも寄れない素晴らしさです。」
牛蒡を分けてあげた近所の奥さんは、「こんな太い牛蒡初めてみたわ。たたきにしてみようかしら」などと言っていた。牛蒡は皮がおいしいしので剥かず、タワシで洗って土を落とすぐらいでよい。つい見落としがちな食材だが、味がよくて、豊富な食物繊維がとれるので、この冬はたくさん取れた牛蒡をふんだんに食べたい。牛蒡は広くユーラシア大陸に自生するが、食用とするのは日本人だけであるらしい。
牛蒡掘る黒土鍬にへばりつく 高浜 虚子