
今日、24節季の啓蟄である。冬眠していた土中の虫たちが、春の暖かさに誘われて地上に出てくる。我が家のベランダの鉢底には、越冬したアリがたくさん這い回っている。一輪だった梅の花も、競うように開きはじめている。
己が影を慕うて這える地虫かな 村上 鬼城
生涯、旅に暮らした杜甫であったが、50歳でようやく成都の草堂で妻子とともにおだやかな暮らしの日々を迎えた。早起きして、庭を清めたり、丘を逍遥する日々を送った。
一丘曲折を蔵し
緩歩斎攀有り
童僕城市より来り
瓶中酒を得て帰る
丘には曲がりくねった道があり、ゆっくり歩いたり、ときには坂道を登ったりもする。召使の少年が街からやってきて、瓶に酒を満たして帰っていった。啓蟄ののどかな春の日、杜甫にはこんなのどかな暮らしがあった。しかしそれもほんの一時のこと、54歳のときこののどかな草堂を捨て、家族を連れて流浪の旅に出た。乱を避け、親戚を頼ったが、大水のため進むことができず、舟のなかで没した。享年59歳であった。