最低気温が10℃を切って、朝夕寒く感じる頃に、花を咲かせるのが菊である。秋深くなって咲くためか、菊が長寿の妙薬であることが、昔から信じられてきた。話は古代中国の魏の文帝の治世にさかのぼる。皇帝から長寿の妙薬を探すように命じられた勅使の一行が、霊水の源を訪ねてレッケン山という山に入った。そこで邂逅したのが慈童という若者であった。姿は若者であったが、菊の葉から滴る露で霊薬になった沢の水を飲んだところ、700年経っても昔のままの姿であるいう。さっそく勅使は沢の水を汲み、帝に献呈した。
新潟に菊水という酒がある。この酒の醸造場が国道沿いにあるので、誰でも寄って試飲し、この酒を求めることができる。この蔵から宣伝を依頼された訳でもないが、おいしい酒だ。ただし、アルコール度が他の酒に比べて高いので、少量を飲んでも酔う。菊水は、9月9日の重陽の日に酒に菊の花びらを浮かべて飲むと長生きするという中国の風習から命名されたものであろう。その奥には、慈童の伝説があることは、容易に想像できる。だが、その後文帝が不老長寿であったという記録は、歴史に残っていない。