朝寒夕寒物みななつかし 種田山頭火
昭和5年秋、山頭火の四国での行乞の旅は、秋晴れとしぐれと変わりやすい空のもとにあった。山頭火の『行乞記』の10月28日の項を見ると、
「山道が二つに分かれてゐる、多分右がほんたうだらうとは直感したが、念のため確かめたいと
思って四方を見まはすけれど誰もゐない、ただ大きな牛が草を食んでゐる、そして時々不審そ
うに私を見る、私も牛を見る、私はあまり牛といふ動物を好かないが、その牛には好感が持て
た、道を教へてくれ、牛よ。」
こんな文章に俳句が添えられている。
秋はいち早く山の櫨を染め 山頭火
山頭火は姿は僧に変えているが、真正の僧ではなかった。僧のするように行乞をしても、その施しで、宿に泊まり、焼酎を飲んだ。同宿の人と、包み隠すこともなく煩悩を語った。そんな山頭火の道にも、季節は深まる。
しぐるるや道は一すじ 山頭火