日の経つのが早くて、秋が深まってきたと思うと、北から初雪の便りが聞こえてくる。北海道で冬、沖縄で夏。この季節ならではの、日本の秋である。森鴎外の俳句に
行秋やでゞ虫殻のなかに死す
でゞむしとはでんでん虫で、カタツムリのことである。夏の間は、頭の角を出しながら、木々の葉をついばんでいたが、秋が深まると、殻を捨てていずれかへ去ってしまう。中身のない殻に、鴎外は虫の生命をみている。触るとすっかり乾燥して、海岸の貝殻とは違った軽さだ。秋の寂しさのシンボルのような存在である。草むらには、青い葉がなくなり、霜や雪への準備が完了した。