近郊の田では稲刈りが進み、スーパーの店頭には新米が並び始めた。5月の田植えから5ヶ月、稲は生育を終えて、人々に米を届ける。夏の強い日光を受けて、実を成熟させて、この季節には掛け替えのないおいしい新米になる。稲の成長には、今日なお農家の人々の、たゆまぬ苦労がある。
禾を鋤いて 日は午に当たる
汗は滴る禾下の土
誰か知らん盤中の餐
粒粒 皆 辛苦なるを
詩中の禾は稲のことである。粒粒辛苦という四字熟語は、この詩を出典としている。昔、釜で米を炊いたが、一粒の飯を大切に、というのが親の教えであった。たった一粒にも、田で働く農夫の貴重な苦労が詰まっている。貧しい食卓を囲み、こんな話をしながらひと時の食事を摂った。それがこの国の食の伝統であった。新米のおいしさをかみしめるのは、秋の一番の幸せであった。