monoろぐ

古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

謡曲「松虫」

2011年09月10日 | 日本古典文学

 謡曲「松虫」は、(夢幻能にはよくあることですが、)何だかよくわからない部分があるお話です。
 男が1人、松虫の声をもっとよく聞こうとひとりで野原に分け入って帰ってこない。どうしたのだろうと、連れの男が探しにいくと、彼は草むらに横たわり息絶えていた。――さてその死因は何なんでしょう?という疑問に対する答えは一切なく、最後に、松虫の声を楽しむ宴(うたげ)の様子が語られて終わっているのです。
 もう一つ気になる箇所は、「いつまでも変わらぬ友こそは、買い得たる市(いち)の宝なれ」というくだり。これって、市場で友人を買ったってことですか? この二人連れは、そういう関係なの? それなら、“友”って名付けるのも変な気がするし・・・。(いっそのこと、“友=酒”と解釈すれば、買うことも納得できるのでは?)
 「四季祝言」の「九月九日」の祝言謡として、「松虫」の一節が採られていて、「いつまでも変わらぬ友こそは、買い得たる市の宝なれ」の部分もしっかり入っているのです。当時は、めでたい文章として、ハレの場で使用されていたということになります。この部分に関する、まだ知られていない説話とか逸話があるんじゃないんでしょうか。

 ちなみにCiNiiで見つけた、落合博志氏の論文「『四季祝言』考」では、以下のような解釈となっています。
「この市で飲む美酒よりも、こうしていつも連れ立って市へ行く友(或いは、いつも市で会う友)、いつまでも変らぬ友こそが何より大切な宝なのだ」