わつらはせ給ふける時、鳥羽殿にて時鳥鳴けるをきかせ給ふてよませ給ふける 鳥羽院御製
つねよりもむつましきかな時鳥しての山路の友とおもへは
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
人のもとに侍りけるに俄にたえいりてうせなむとしけれは、しとみのもとにかきいれておほちにをきたりけるに、露のあしにさはるほと郭公のなくをきゝていきのしたによめる 田口重如
草のはにかとてはしたり郭公しての山ちもかくや露けき
(金葉和歌集~国文学研究資料館HPより)
うみたてまつりたりけるみこのなくなりて、又の年、郭公をきゝて いせ
しての山こえてきつらむ(イこえてやきつる)時鳥こひしき人のうへかたらなむ
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)
かの山の事や語るとほととぎす急ぎ待たるる年の夏かな
(和泉式部続集~岩波文庫)
待賢門院の女房堀川の局のもとよりいひおくられける
この世にてかたらひおかむ郭公死出の山路のしるべともなれ
かへし
時鳥なくなくこそはかたらはめ死出の山路にきみしかゝらば
(山家集~バージニア大学HPより)
題しらす 従三位為信
つてにきくことそかなしきしての山かへらぬ道のうきに付ても
此歌は、夢に郭公の松に居たりけるを、みれははねに青き色紙を結ひつけたり、とりてみれはなくなりしおやの手にて、「しての山帰らさりける道なれはことかたらへとことつくるなり」とあり、夢のうちにいみしうなきて、返しによめりける歌となん
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)
四月廿三日、あけはなるゝ程、雨すこし降りたるに、東のかた、空にほとゝぎすの初音(はつね)鳴きわたる、めづらしくもあはれにきくにも、
あけがたに初音きゝつるほとゝぎす死出の山路のことをとはばや
あらずなるうき世のはてにほとゝぎすいかで鳴く音のかはらざるらむ
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)
同じ僧都の母の許に、故内侍ともこともに(「ともろともに」の誤か)卯の花見しことなどいひやりたれば
時鳥なき陰にても故郷の苔の垣根をいかに恋(こ)ふらん
かへし
故郷の垣根にのぞみわれは泣く死出の田長(たをさ)はとぶらひもせず
(和泉式部集~岩波文庫)
月たちて、「今日ぞ渡らまし」と思し出でたまふ日の夕暮、いとものあはれなり。御前近き橘の香のなつかしきに、ほととぎすの二声ばかり鳴きて渡る。「宿に通はば」と独りごちたまふも飽かねば、北の宮に、ここに渡りたまふ日なりければ、橘を折らせて聞こえたまふ。
「忍び音や君も泣くらむかひもなき死出の田長に心通はば」
宮は、女君の御さまのいとよく似たるを、あはれと思して、二所眺めたまふ折なりけり。「けしきある文かな」と見たまひて、
「橘の薫るあたりはほととぎす心してこそ鳴くべかりけれ
わづらはし」
と書きたまふ。
(源氏物語・蜻蛉~バージニア大学HPより)
家に、郭公十首歌よみ侍ける中に 法性寺入道前関白太政大臣
ほとゝきすしての山路のくらきよりいかて五月のやみにきつらん
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)