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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 夏 蚊遣火(かやりび)

2013年06月13日 | 日本古典文学-夏

くさふかきしつのふせやのかはしらにいとふけふりをたてそふるかな
(拾遺愚草~日文研HPより)

蚊遣火
しはし先(まつ)庭にかたよる蚊の声は煙にすめる夕暮の宿
(草根集~日文研HPより)

しはのやのはひりのにはにおくかひのけふりうるせきなつのゆふくれ
(堀河百首~日文研HPより)

さらぬたになつはふせやのすみうきにかひのけふりのところせきかな
(堀河百首~日文研HPより)

文永八年七夕、白川殿にて人々題をさくりて百首歌よみ侍ける時、蚊遣火 前大納言為家
蚊遣火のしたやすからぬ煙こそあたりの宿も猶くるしけれ
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

かやりひのけふりのみこそやまかつのふせやたつぬるしるへなりけれ
(堀河百首~日文研HPより)

あたらよののきもるつきもくもるまてふせやにくゆるなつのかやりひ
(安嘉門院四条五百首~日文研HPより)

蚊遣火を読侍ける 前関白太政大臣
月影のかすむもつらしよそまては煙なたてそ夜はのかやり火
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

かやりひのけふりけふたきあふくまによるはあつさもおほえさりけり
(和泉式部集~日文研HPより)

あやなしややとのかやりひつけそめてかたらふむしのこゑをさけつる
(帯刀陣歌合~日文研HPより)

然者此かひやと申すは、鹿火屋と書き香火屋とは書きたれど、共に蚊火屋と存じたると心得られて侍り。敦隆も博覧の者にて、万葉集能々料簡して部類する程なれば、広く勘へてこそは蚊火とも定め侍りけめ。肥後大進忠兼と申し侍りし歌詠みは、通宗朝臣が外孫、隆源阿闍梨が外謂(ママ)なり。和歌の才覚だて侍りき。小童にて侍りし時、かひやは蚊火屋なりと答へ侍りき。その上に尋ね云、蚊遣火は賤がやの庭などにたつる物なり。その賤が屋別にかひやといふ事いかゞと尋ね侍りしかば、山田などの蘆の辺にたつれば、それが下に蛙の鳴くを蚊火屋が下に鳴く蛙とは詠めるなりと申し侍りき。(略)
(六百番陳情~岩波文庫)

題しらす 人磨
足曳の山田もる庵にをくか火の下こかれつゝ我こふらくは
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

寛平御時、后宮歌合歌 よみ人しらす
夏草のしけき思ひはかやり火の下にのみこそもえわたりけれ
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす 曽祢好忠
かやり火のさ夜ふけかたの下こかれくるしや我身人しれすのみ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

ひとしれすおもふこころはかやりひのしたにこかるるここちこそすれ
(堀河百首~日文研HPより)

題しらす 丹波忠守朝臣
蚊やり火の煙をみても思ひしれ立そふ恋の身にあまるとは
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

題しらす よみ人しらす
夏なれは宿にふすふるかやり火のいつ迄わかみ下もえにせん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

しつのをのそともにたてるかやりひのしたにこかれてよをやすくさむ
(堀河百首~日文研HPより)

かやり火を見侍て よしのふ
かやり火は物おもふ人のこゝろかも夏のよすからしたにもゆらん
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

大宮おもてにはしとみなかなかししていはかとのいといふせくあつけなるにかやり火さえけふりあひたる
我心かねてそらにやみちぬらんゆくかたしらぬやとのかかやり火
(狭衣物語~諸本集成第二巻伝為家筆本)

くるひともなきやまさとはかやりひのくゆるけふりそともとなりける
(散木奇歌集~日文研HPより)


古典の季節表現 六月

2013年06月12日 | 日本古典文学-夏

水無月のころは世もこと更にあつうして人もいきづきあへぬ程なり
家ごとには蚊やり火ふすぶるもあはれなり
あやしきふせやに白くさける夕がほの花の名はことごとしうけたれて聞ゆるも又をかし
ことさらに見物すべきは祇園(ぎをん)まつりなり
もとは是尾州(びしう)の津嶋の御神也
清和天皇の御時貞觀(でうくはん)十一年はじめて都にくわんしやうす
それより神事のことおこりてむかしは六十六のほこをかざりて四条の町をわたしけれど
事大そうなればいまはわづかにその数をしらしむるばかりなり
山をかざりてわたすも又見どころあり
ひとつもあだにいはれなき山はあらず
此日にいたりて神の御こしをあひわたすに
犬神人(いぬじんにん)の立出てまつりの御ともしひちをはり威勢(ゐせい)をふるふもをかしきいはれのある事
(佛教大学図書館デジタルコレクション「十二月あそひ」より)


古典の季節表現 六月十一日 神今食(じんこんじき)

2013年06月11日 | 日本古典文学-夏

みな月のはかげのかづら引きかけてながかれとのみ代をいのるかな
(題林愚抄)

あけやすきころにしあればとりもあへずよひ暁の神の御食薦(みけこも)
(明題和歌集)

左 神今食 入道大納言
更ぬとて今そそなふる坂まくら神もぬる夜の時や知らん
 左神今食は御門の天津神に神供を備奉らせたまふなり。昔は八省中和院に行幸有て。身づから神膳を備給ひける也。今は神祇官などにて有にや。
(年中行事歌合~群書類従)

みなつきのつきかけしろきをみころもうたふささなみよるそすすしき
(拾遺愚草員外~日文研HPより)

 六月 神今食
みな月の月の光もこほりけりひかげかざさぬ小忌(をみ)の袂に
(拾遺愚草員外之外・自筆遺草~「藤原定家全歌集・下」久保田淳校訂、ちくま学芸文庫)

六月十一日は、じんこんじきのまつりなり。上卿土御門中納言・辨。内侍とうよりたちてのち、辨上卿ははやたゝせ給ふ。「内侍とく。」と申し侍りければ、少將内侍、
おそしとは誰をいふらん君をこそ待つらんと思ふ時も過ぎぬれ
歸りまゐりて侍りしに、少將内侍「かく。」とかたり侍りしかば、「上卿よりとくたちて、我こそまちしか。」などかたりて、辨内侍、
いつもさぞ我を待つとはいひしかどまたれし物をさよふくる迄
(弁内侍日記~群書類從)

弘仁五年六月己丑(十四日)
六月十一日に行うべき神今食の祭礼を神祇官で行った。天皇の体調が悪かったことにより延引したのである。
(日本後紀~講談社学術文庫)


古典の季節表現 夏 螢/蛍

2013年06月10日 | 日本古典文学-夏

ほたる
さみだれやこぐらきやどのゆふされをおもてるまでもてらすほたるか
(蜻蛉日記・巻末家集~バージニア大学HPより)

さつきやみさはへのくさはしけけれとかくれぬものはほたるなりけり
(六条右大臣家歌合~日文研HPより)

ほたるひはこのしたくさもくらからすさつきのやみはなのみなりけり
(和泉式部集~日文研HPより)

五月やま木のしたやみに飛ふ蛍空にしられぬほしかとそみる
(建長八年九月十三日・百首歌合~日文研HPより)

夕されば野沢にしげる葦の根のしたにみだれてとぶ蛍かな
(文保百首)

暮るるより露とみたれて夏草の茂みにしけくとふ蛍哉
(新拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

江蛍
波くらき入江の芦にみかくれて有るかなきかの蛍火の影
(草根集~日文研HPより)

水辺蛍
なかれ行く音もすすしき山河の岩間かくれにとふほたるかな
(宝治百首~日文研HPより)

百首歌奉し時 前関白左大臣
底きよき玉江の水にとふ蛍もゆるかけさへ涼しかりけり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

江上蛍火
すたきゐる萍(うきくさ)なからみさひ江にさそふ水あれは行く蛍かな
(草根集~日文研HPより)

水辺蛍
身より猶あまる思ひをさそふ水ありとやここにほたるとふらん
(宝治百首~日文研HPより)

ものおもふ心のうちは夏草のしげみにもゆるほたるなりけり
(光経集)

蛍随風過
色みえぬ風の心ももえわたる思ひをつけてゆく蛍かな
(正徹詠草切~「古筆手鑑大成」)

かくしえぬおもひそしるきおくやまのいはかきふちにあまるほたるは
(嘉元百首~日文研HPより)

露ながらもゆる蛍はあさぢふのをのがおもひや身にあまるらむ
(前摂政家歌合)

 桂のみこに、式部卿の宮すみたまひける時、その宮にさぶらひけるうなゐなむ、この男宮をいとめでたしと思ひかけたてまつりけるをも、え知りたまはざりけり。蛍のとびありきけるを、「かれとらへて」と、この童にのたまはせければ、汗衫の袖に蛍をとらへて、つつみて御覧ぜさすとて聞えさせける。
 つつめどもかくれぬものは夏虫の身よりあまれる思ひなりけり
(大和物語~新編日本古典文学全集)

寄蛍恋を 藤原為道朝臣
終夜(よもすから)もゆる蛍に身をなしていかて思ひの程もみせまし
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

たれかしるしのふのやまのたにふかみもゆるほたるのおもひありとも
(藤河五百首~日文研HPより)

物思ほしけるころ、蛍の飛び交ふを御覧じて 御垣が原のみかどの御歌
身を換ふる一つ思ひの夏虫もいと我ばかり焦がれやはする
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

玉鬘の尚侍のもとに立ち寄りて侍りけるに、六条院、几帳の帷(かたびら)に蛍を包み置き給ひて、うち掛け給へば、にはかに光るを、ほどなく紛らはし隠しければ 蛍兵部卿のみこ
鳴く声の聞えぬ虫の思ひだに人の消(け)つには消ゆるものかは
返し 尚侍
声はせで身をのみ焦がす蛍こそ言ふにもまさる思ひなるらめ
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

ほたるをよみ侍りける 源重之
をともせて思ひにもゆる蛍こそ鳴虫よりも哀なりけれ
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

男にわすられて侍けるころ貴布祢にまいりて、みたらし河に蛍のとひ侍けるをみてよめる いつみしきふ
物思へはさはのほたるもわか身よりあくかれ出る玉かとそみる
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)


此世にてもゆる蛍はおもひ川うたかた誰にあはて消えけん
(草根集~日文研HPより)

おぼつかなたが身をなげし魂ならむ千尋の谷に蛍とぶかげ
(心敬集)


古典の季節表現 夏 夏の夜

2013年06月09日 | 日本古典文学-夏

夏月を 入道前太政大臣
手に結ふ岩井の清水底みえて影もにこらぬ夏のよの月
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

夏月
夏山の木間やくらくしけるらんもりくる月の影そ稀なる
(宝治百首~日文研HPより)

夏の夜は月待つほどにむすびおく夕露すずし庭の草むら
(法性寺為信集)

ゆふすすみねやへもいらぬうたたねのゆめをのこしてあくるしののめ
(六百番歌合~日文研HPより)

なつのよはやかてかたふくみかつきのみるほともなくあくるやまのは
(式子内親王集~日文研HPより)

夏暁雲
今見るも夢のわたりか月の舟雲浅き江にあくる夏の夜
(草根集~日文研HPより)

夏歌中に 藤原孝継
枕とてむすふはかりそあやめ草ねぬに明ぬる夏の夜なれは
(続後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

五月の短夜、郭公の一聲の間に明けなんとすれども、あやめの一夜の枕、再會不定の契を結びて捨てて出でぬ。
かりふしの枕なりともあやめ草ひとよのちぎり思ひ忘るな
(海道記~バージニア大学HPより)

寛平御時きさいのみやの歌合のうた きのつらゆき
夏の夜のふすかとすれは郭公鳴一こゑにあくるしのゝめ
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

さつきやまをりはへてなけほとときすなつもふけゆくありあけのそら
(仙洞影供歌合~日文研HPより)

なつのよはたたくくひなのひまなさにほとなくあくるあまのとなれや
(六百番歌合~日文研HPより)

いと、さしも聞こえぬ物の音だに、折からこそはまさるものなるを、はるばると物のとどこほりなき海づらなるに、なかなか、春秋の花紅葉の盛りなるよりは、ただそこはかとなう茂れる蔭ども、なまめかしきに、水鶏のうちたたきたるは、「誰が門さして」と、あはれにおぼゆ。(略)
いたく更けゆくままに、浜風涼しうて、月も入り方になるままに、澄みまさり、静かなるほどに、(略)
(源氏物語・明石~バージニア大学HPより)

百首歌奉し時 前中納言重資
うたゝねにすゝしき影をかたしきて簾は月のへたてともなし
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

夏歌の中に 従三位盛親
はしちかみうたゝねなから更る夜の月の影しく床そ涼しき
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

みしかよはうたたねなからはやふけておくまてつきのかけそさしいる
(延文百首~日文研HPより)

夏夜といふことを 従二位為子
星おほみはれたる空は色こくて吹としもなき風そ涼しき
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

なつかりのあしまのなみのおとはしてつきのみのこるみほのふるさと
(夫木抄~日文研HPより)

をちこちの村の蚊遣火うちけふり水鶏なくなり森の木隠
(草根集~日文研HPより)

夏夜
五月闇くらき枕の蚊のこゑにいとふ煙もなかき夏のよ
夏夜短
夏衣たもとにとほる蚊のこゑを打ちはらふまに明くる夜はかな
(草根集~日文研HPより)

夏は、夜。月のころは、さらなり。闇もなほ。螢のおほく飛びちがひたる、また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くも、をかし。雨など降るも、をかし。
(枕草子~新潮日本古典集成)

車胤聚楽螢 晋代大臣也。河東人也。位至大司空。見晋書五十三巻。
車胤若リシ時コノミテ書ヲ誦ニ。家マツシクシテ。油ナカリケレハ。螢ヲアツメテ。絹ノフクロヲヌヒテ。ホタルヲ入テ。トモシヒトシテフミヲヨミケリ。後ニ司徒ニ至リニケリ。
 ヒト巻ヲヨミモハテヌニアケニケリ螢ヲトモス夏ノ夜ノ空
(蒙求和歌~続群書類従15上)

恋歌の中に 躬恒
さみたれのたそかれ時の月影のおほろけにやはわれ人をまつ
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

寛平御時きさいのみやの歌合のうた きのとものり
さみたれに物思ひをれは時鳥夜ふかく鳴ていつち行らん
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

女にいささか物申しけるに、ほととぎすの鳴きければ やせがはの衛門佐
ほととぎすこと語らはんほどだにもなくて明けぬる夏の夜半かな
(風葉和歌集~岩波文庫「王朝物語秀歌選」)

臥すほどもなくて明けぬる夏の夜は逢ひても逢はぬ心地こそすれ
(源氏釈~バージニア大学HPの源氏物語より)

題しらす 小野小町
夏の夜のわひしきことは夢をたにみる程もなく明るなりけり
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

あひしりて侍ける中の、かれもこれも心さしはありなから、つゝむことありてえあはさりけれは よみ人しらす
よそなから思ひしよりも夏の夜のみはてぬ夢そはかなかりける
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

いかにせむみじかき夜半のうたた寝に逢ふもほどなき夢のちぎりは
(藤葉和歌集)

五月ばかり、「寝ぬ(に)なぐさむ」といひたる人に
まどろまで明かすと思へば短夜もいかに苦しき物とかは知る
(和泉式部続集~岩波文庫)

月あかく侍ける夜、人のほたるをつゝみてつかはしたりけれは、雨ふりけるに申つかはしける 和泉式部
思ひあらは今夜の空はとひてましみえしや月の光りなりけむ
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

さみたれ空晴て月あかく侍けるに 赤染衛門
五月雨の空たにすめる月影に涙の雨ははるゝまもなし
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)