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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

古典の季節表現 夏 水鶏(くひな)

2013年06月08日 | 日本古典文学-夏

水鶏を 後伏見院御歌
心ある夏のけしきのこよひかな木の間の月に水鶏声して
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

つきかけのさすにまかするまきのとをなにとくひなのたたくなるらむ
(沙玉集~日文研HPより)

夕月夜おかしき程に、くひなの鳴侍けれは 上東門院小少将
天の戸の月のかよひちさゝねともいかなるかたにたゝく水鶏そ
返し 紫式部
槙の戸もさゝてやすらふ月影に何をあかすもたゝく水鶏そ
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

 五月雨つれづれなるころ、公私もの静かなるに、思し起こして渡りたまへり。(略)女御の君に御物語聞こえたまひて、西の妻戸に夜更かして立ち寄りたまへり。月おぼろにさし入りて、いとど艶なる御ふるまひ、尽きもせず見えたまふ。いとどつつましけれど、端近ううち眺めたまひけるさまながら、のどやかにてものしたまふけはひ、いとめやすし。水鶏のいと近う鳴きたるを、
 「水鶏だにおどろかさずはいかにして荒れたる宿に月を入れまし」
 と、いとなつかしう、言ひ消ちたまへるぞ、
 「とりどりに捨てがたき世かな。かかるこそ、なかなか身も苦しけれ」
 と思す。
 「おしなべてたたく水鶏におどろかばうはの空なる月もこそ入れ
 うしろめたう」
 とは、なほ言に聞こえたまへど、あだあだしき筋など、疑はしき御心ばへにはあらず。年ごろ、待ち過ぐしきこえたまへるも、さらにおろかには思されざりけり。
(源氏物語・澪標~バージニア大学HPより)

中院入道右大臣家にて、水鶏驚眠といへる心を 道因法師
夏の夜はうたゝねなから明なましたゝく水鶏の音なかりせは
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

人のこんと頼めて見え侍らさりけるつとめて、よめる 和泉式部
水鶏たにたゝく音せは真木のとを心やりにもあけてみてまし
(風雅和歌集~国文学研究資料館HPより)

さよなかにくひなならてはやまさとのすきのいたとをたれたたかまし
(東塔東谷歌合~日文研HPより)

連夜の水鶏
あれはててさすこともなき真木の戸を何と夜がれずたゝくくひなぞ
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)


古典の季節表現 夏 夏草

2013年06月07日 | 日本古典文学-夏

山さとにこれかれまかりて歌よみ侍けるに、野草をよめる 藤原定通
やきすてしふるのゝをのゝまくす原玉まくはかり成にける哉
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

右大将定国四十賀に、内より屏風てうしてたまひけるに たゝみね
おほあらきのもりの下くさしけりあひてふかくも夏のなりにける哉
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

なつくさ
駒や来る人や分(わ)くると待つほどに繁りのみます宿の夏草
(蜻蛉日記・巻末家集~岩波文庫)

吹きわくる風のあとさへ見えぬまで夏野の草や茂りゆくらむ
(永享九年住吉社奉納百首)

夏草
しけり行く夏野の草の深緑なひく葉すゑの風そ涼しき
(宝治百首~日文研HPより)

わけて行くをしかもそれとみえぬまて夏野の草はたかくなるらし
夏ふかみ人も分けこぬ野へなれは跡みえかたき草の原かな
(建長八年九月十三日・百首歌合~日文研HPより)

分行は袖そ露けき夏草のしけさまされるもりの下道
(天正五年親王家五十首~続群書類従14下)

庭のままゆるゆる生ふる夏草を分けてばかりに来む人もがな
(建礼門院右京大夫集~岩波文庫)

題しらす 貫之
足曳の山したしけき夏草のふかくも君をおもふころかな
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

たいしらす 相摸
あとたえて人もわけこぬ夏草のしけくも物を思ふ比かな
(新勅撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

水無月の比、萩の下葉にかきて人のもとにつかはしける 清少納言
是をみようへはつれなき夏草もしたはかくこそ思ひみたるれ 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

あとたえてしけりそまさるかれはてむのちをはしらぬのへのなつくさ
(文保百首~日文研HPより)


古典の季節表現 夏 氷室

2013年06月01日 | 日本古典文学-夏

道行三人「花の名の。白玉椿八千代経て。白玉椿八千代経て。緑にかへる空なれや。春の後瀬の山続く。青葉の木蔭分け過ぎて。雲路の末の程もなく。都に近き丹波路や。氷室山にも着きにけり。氷室山にも着きにけり。
(略)
シテサシ「夫れは常磐の色添へて。緑に続く氷室山の。谷風はまだ音さへて。氷に残る水音の雨も静かに雪落ちて。実に豊年を見する御代の。御調の道も直なるべし。
下歌「国土豊に栄ゆくや千年の山も近かりき。
上歌「変わぬや。氷室の山の深緑。氷室の山の深緑。春の気色は有りながら。此谷陰は。去年のまゝ深冬の雪を集め置き。霜の翁の年々に。氷室の御調まもるなり。氷室の御調まもるなり。
(略)
シテ「然れば年立つ初春の。地「初子の今日の玉箒。手に取るからにゆらぐ玉の。翁さびたる山陰の。去年のまゝにて降り続く。雪のしづくをかき集めて。木
の下水にかき入れて。氷を重ね雪を積みて。待ち居れば春過ぎてはや夏山になりぬれば。いとゞ氷室の構へして。立ち去る事も夏陰の。水にも住める氷室守。夏衣なれども袖さゆる。気色なりけり。
(謡曲「氷室」~謡曲三百五十番集)

つちさけててるひもしらすきえせぬはひむろはなつのほかにやあるらむ
(堀河百首~日文研HPより)

はるもすきなつたけぬれとひむろやまふゆををさめておけるなりけり
(夫木抄~日文研HPより)

なつなからこほりをりけるおくやまはこのよのほかのここちこそすれ
(為忠家初度百首~日文研HPより)

氷室涼
風さむき氷室のかけの山人はいててやよそに夏をしるらん
(草根集~日文研HPより)