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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

菱(ひし)

2021年06月18日 | 日本古典文学-草樹

荷(はちす)・菱(ひし)、多(さは)に生(お)ふ。
(肥前国風土記~日本古典文学大系2)

 豊前(とよのみちのくち)の国の白水郎(あま)の歌一首
豊国の企救の池なる菱の末を摘むとや妹がみ袖濡れけむ
(とよくにの きくのいけなる ひしのうれを つむとやいもが みそでぬれけむ)
(万葉集~伊藤博「萬葉集釋注」集英社文庫ヘリテージシリーズ)

御前の池に網下ろし、鵜下ろして、鯉、鮒取らせ、よき菱、大きなる水蕗取り出でさせ、(略)
(うつほ物語~新編日本古典文学全集)

あるじのおとど、白き綾の御衣脱ぎて、侍従に賜ふとて、
 深き池の底に生ひつる菱摘むと今日来る人の衣にぞする
(うつほ物語~新編日本古典文学全集)

すすしとや-うきぬのいけに-そてぬれて-ひしとりすさひ-くらすころかな 
(正治初度百首_俊成~日文研HPより)

ふなはたを-たたくもさひし-よひのまに-ひしとるふねや-えにかへるらむ
(夫木和歌抄_為相~日文研HPより)

(たいしらす 源俊頼)
あさりせし水のみさひにとちられてひしの浮はに蛙なくなり 
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

いけのうへの-ひしのうきはも-わかぬまて-ひとつにしける-にはのよもきふ 
みさひえの-ひしのうきはに-かくろへて-かはつなくなり-ゆふたちのそら 
(秋篠月清集~日文研HPより)

したみつの-あささはぬまは-なのみして-ひしのはしつむ-あめそかかれる 
(為尹千首~日文研HPより)

みしまえの-ひしのうきはに-ゐるたまを-みかくかなつの-つきもさやけき 
(後鳥羽院御集~日文研HPより)

夏沼菱
夏ふかき沼水あつく照す日にみくり菱の葉色そつれなき
(草根集~日文研HPより)

あすへては-こころほそみの-いけにおふる-ひしのしたねの-なかれこそすれ 
(古今和歌六帖~日文研HPより)

みくさゐる-いりえのひしの-つるたえす-このよをふかく-おもふはかなさ 家良
いかかして-いけのひしつる-うきことは-はしめもはても-おもひわくへき 為家
いかにせむ-ひとしれぬまの-みこもりに-ひしのしたねの-たえぬなけきを 知家
(新撰和歌六帖~日文研HPより)

 七日、市腋をたちて津島のわたりといふ處、舟にて下れば、蘆の若葉、青みわたりて、つながぬ駒も立ちはなれず。菱の浮葉に浪はかくれども、つれなき蛙はさわぐけもなし。
(海道記~バージニア大学HPより)

 東平春溜通。 幽明録曰。春氷とけて後菱始て生出る也。昔東平郡のうちに氷の上にひしとる女あり。身にはちすの葉をきたり。呂求是を見て。人にあらす鬼の類也といへり。女曰。子不聞荷衣■茅。来て忽に不見。化して為獺而去。
くみてしる人も有けりひしとりし妹かすかたの池の心を
(百詠和歌~続群書類従15上)

 潭花発鏡中。 ふちの色鏡に似たり。裏にひしの花を移す事あり。此故にひしの花鏡中に開くと云り。
ひしうつる鏡やみしと人とはゝうきぬの池のかけをこたへん
(百詠和歌~続群書類従15上)


六月題詞

2021年06月14日 | 読書日記

 湿気は馬に乗り、泥(どろ)のなかにまつしろい凧(たこ)をあげる。眠(ねむ)りは急ぎ足して象眼(ざうがん)の淵にをさまりしづみ、こころよい忘却の肌によりそひ、古い胡弓の哀音のかげにまつはりつく。紅(くれなゐ)は黒(くろ)となつてほころび、緑は緋となつてくるひ、黄は群青となつて痴(し)れわらひする六月の霊の食器にあふれるおびただしい恐怖のあはあはしい微動。
(『限定版 大手拓次全集 別巻』(白鳳社、1971年、446~447p)より「季節題詞」)


さねかづら/さなかづら

2021年06月12日 | 日本古典文学-草樹

凡(すべ)て、諸(もろもろ)の山野(やまの)に在るところの草木は、(略)、五味子(さねかづら)、(略)。
(出雲国風土記~「日本古典文学大系2」)

佐那犖の根を舂き、其の汁の滑を取りて、其の焙の中の簀橋に塗り、踏みて仆るべく設けて、(略)
(古事記-応神天皇~丸山林平「定本古事記」)

内大臣藤原卿、鏡王女に報(こた)へ贈る歌一首
 玉櫛笥みもろの山のさな葛さ寝ずはつひに有りかつましじ
 (たまくしげ みもろのやまの さなかづら さねずはつひに ありかつましじ)
 〈或本の歌には「玉櫛笥三室外山の」といふ〉
(万葉集~伊藤博「萬葉集釋注」集英社文庫ヘリテージシリーズ)

百首歌奉し時 権中納言公雄 
余所にのみ/人を見山の/さねかつら/さねすはいける/かひやなからん 
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

よそにのみみ山か裾のさねかすらさねすて過んことそ苦しき
(久安六年御百首-実清~群書類従11)

ゆふたたみ-たなかみやまの-さなかつら-ありさりてしも-いまならすとも 
(万葉集~日文研HPより)

おとにのみ-ならしのをかの-さねかつら-ひとしれすこそ-くらまほしけれ
(素性集-異本独自歌~日文研HPより)

女のもとにつかはしける 三条右大臣 
なにしおはゝ/あふさか山の/さねかつら/人にしられて/くるよしもかな 
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

顕絶恋といふ事を 源兼康朝臣 
たえぬるか/相坂山の/さねかつら/しられぬほとを/何なけきけん 
(新後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

恋の心を 中務卿宗尊親王 
逢坂の/関路におふる/さねかつら/かれにし後は/くる人もなし 
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

あふさか山のさねかつらは、人しれす御心にはたえせす、ありしやうに、ひたすらに、いかにせましとなけかれ給ふに、(略)
(狭衣物語~諸本集成第二巻伝為家筆本)

つれなきを-おもひしらねの-さねかつら-はてはくるをも-いとふへらなり 
(古今和歌六帖~日文研HPより)

あしひきの-やまさねかつら-くるくるも-あひみてあはぬ-いもにもあるかな 
(新撰和歌六帖-家良~日文研HPより)

いとはしや-やましたしけき-さねかつら-はひまつはれて-たえぬこころは 
(新撰和歌六帖-為家~日文研HPより)

さねかつら-いまはたゆとや-あふさかの-ゆふつけとりの-くりかへしなく 
(壬二集~日文研HPより)

本院の北方のまた帥の大納言のめにていますかりけるおりに平中かよみて聞えける
  はるの野にみとりにはへるさねかつらわかきみさねとたのむいかにそといへりけるかくいひいひてあひちきる事ありけり(略)
(大和物語~国文学研究資料館HPより)

ほとときす-なかなくやまの-さねかつら-くりかへしても-あかぬこゑかな 
(万代和歌集~日文研HPより)

あきのくる-やまさなかつら-うちなひき-あさつゆかけて-かせやふくらむ 
(明日香井集~日文研HPより)

あられふる-みやまかくれの-さねかつら-くるひとみえて-おひにけるかな 
(順集~日文研HPより)

地太鼓頭「荊棘をいたゞく髪筋は。/\。
シテ「主を離れて空に立ち。地「元結更にたまらねば。
シテ「さね葛にて結びさげ。
地「耳には鎖を下げたれば。
シテ「鬼神と見給ふ。
地「姿も恥かし。
(謡曲「昭君」~半魚文庫「謡曲三百五十番」より)


つづら、あをつづら、はまつづら、他

2021年06月11日 | 日本古典文学-草樹

やつめさす 出雲建(いづもたける)が 佩(は)ける太刀(たち) 黒葛(つづら)多巻(さはま)き さ身(み)なしにあはれ
(古事記歌謡~「日本古典文学大系3」)

童女(をとめ)の胸鉏(むなすき)取らして、大魚(おふを)のきだ衝(つ)き別(わ)けて、はたすすき穂振り別けて、三身(みつみ)の綱(つな)うち挂(か)けて、霜黒葛(しもつづら)くるやくるやに、河船(かはふね)のもそろもそろに、国来(くにこ)国来と引き来縫へる国は、三穂(みほ)の埼(さき)なり。
(出雲国風土記~「日本古典文学大系2」)

深山(みやま)の小葛(こつづら)
繰(く)れ繰(く)れ小葛(こつづら)
(神楽歌・早歌~「日本古典文学大系3」)

上つ毛野安蘇山つづら野を広み延ひにしものをあぜか絶えせむ
(かみつけの あそやまつづら のをひろみ はひにしものを あぜかたえせむ)
(万葉集~伊藤博「萬葉集釋注」集英社文庫ヘリテージシリーズ)

わかこひは-あそやまもとの-あをつつら-なつのをひろみ-いまさかりなり 
(新撰和歌六帖-為家~日文研HPより)

梓弓/ひきのゝつゝら/末つゐに/わか思ふ人に/ことのしけけん 
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

(ほうちひやくしゆのうたたてまつりけるとき、ゆみによするこひ) 土御門院小宰相 
たか方に/心よるとも/あつさ弓/ひきのゝつゝら/くるよありせは 
(続後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

つひにたに-あふとおもはは-あつさゆみ-ひきののつつら-すゑやたのまむ 
(嘉元百首-為世~日文研HPより)

やまたかみ-たにへにはへる-あをつつら-たゆるときなく-あふよしもかな
(古今和歌六帖~日文研HPより)

(たいしらす) 寵 
山かつの/かきほにはへる/あをつゝら/人はくれとも/ことつてもなし
(古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

 ある人、歌詠み集て、三位大進と聞こえし人のもとに行きて、見せ合はせけるに、「はへる(侍る)」といふ事を詠みたりけるを、「歌の言葉にあらず」と言ひければ、「古き歌にまさしくあり」と言ひけり。「よもあらじものを」と言ふに、「いで、ひき出でて見せ奉らん」とて、古今をひらきて、
  山がつのかきほにはへる青つづら
といふ歌をみせける、いとをかしかりけり。
(今物語~三木紀人「今物語〈全訳注〉」講談社学術文庫)

(たいしらす 読人不知)
なき名のみ/たつたの山の/あをつゝら/又くる人も/みえぬ所に 
(拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

兼仲朝臣のすみ侍けるとき、忍ひたる人かす++にあふ事かたく侍けれはよめる 高階章行朝臣女 
人めのみ/しけきみ山の/青つゝら/くるしき世をも(イくるしき世をそ)/思ひ侘ぬる 
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

あをつつら-しけきひとめを-もるやまの-したにかよはぬ-みちそくるしき 
(夫木和歌抄~日文研HPより)

たいしらす よみ人しらす 
こぬもうく/くるもくるしき/あをつゝら/いかなる方に/おもひ絶なん
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

こころから-ひまもなきまて-あをつつら-くるくるものを-おもふころかな
やまふかみ-くるみちもなき-あをつつら-なにとてひとの-たつねそむらむ 
(祐子内親王家紀伊集~日文研HPより)

寄黒葛恋
見さらましうき身外山におりはててつつらはふ木のあまた心を
(草根集~日文研HPより)

ひにそへて-しけりそまさる-あをつつら-くるひともなき-まきのいたとに 
(夫木和歌抄-後鳥羽院~日文研HPより)

つつらはふ-はやまはしたも-しけけれは-すむひといかに-こくらかるらむ 
(山家集~日文研HPより)

題しらす 津守国助 
ともしする/五月の山の/青つゝら/くるゝ夜ことに/鹿やたつらん 
(新千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

しけりゆく-しはをのやまの-くまつつら-くるるもなかき-みなつきのそら 
(新撰和歌六帖-家良~日文研HPより)

述懐を 了然上人 
今はとて/入にし山の/青つゝら/なをもくるしき/此世なりけり 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)


しらせはやま砂かくれのはまつつら下にくるしく思ふ心を
(宗尊親王百五十番歌合~日文研HPより)

なこのうみの-うらへにおふる-はまつつら-たえまくるしき-ものをこそおもへ
(堀河院艶書合~日文研HPより)

あふことは-さてもなきさの-はまつつら-くるにつけてそ-そてはぬれける 
(万代集~日文研HPより)

浦夏月
浜つつら月も涼しき夕露に夏やこぬみのうら風そふく
(草根集~日文研HPより)


恋草(こひぐさ)

2021年06月10日 | 日本古典文学-草樹

こひくさを-ちからくるまに-ななくるま-つみてもあまる-わかこころかな 
(古今和歌六帖~日文研HPより)

七くるまつむともつきしをもふともいふにもあまる我こひくさは
(狭衣物語~諸本集成第二巻伝為家筆本)

今は心もみたれ髪のいふにもあまる恋草はつむともつきぬ七車の又めくりあふ事もやといたらぬくまもなくまとひありきてもとむれと
(鳥部山物語~バージニア大学HPより)

これかや春の物狂(ものぐる)ひ、 乱れ心か 恋ひ草(ぐさ)の
力(ちからぐるま)に、 七車(ななぐるま)、 積むとも尽きじ、 重くとも引けや、えいさらえいさと、
(謡曲「百萬」~岩波・日本古典文学大系40)

 初恋
くるまにも余るためしの恋草をけふつみそむる袖の露けさ
(亜槐集~群書類従14)

しけりあはむ-すゑをもしらす-こひくさの-やとのまかきに-めくみそめぬる 
(夫木和歌抄-慈円~日文研HPより)

いかにせむ-にひはえまさる-こひくさの-しけらぬほとに-あふよしもかな
(清輔集~日文研HPより)

もえいてて-またふたはなる-こひくさの-いくほとなきに-おけるつゆかな 
(頼政集~日文研HPより)

あふことは-なつのにしける-こひくさの-かりはらへとも-おひむせひつつ 
(散木奇歌集~日文研HPより)

あめとふる-なみたにぬるる-こひくさは-ひにそへてこそ-もえまさりけれ 
(為忠家後度百首-頼政~日文研HPより)

刈るならば千束やあらむ恋草の種とは袖の涙なりけり
(蔵玉集~「新編国歌大観5」)

刈りわけん方(かた)こそなけれしげりゆく我が恋草の末のみだれは
(雅世卿集)

ひとしれぬ-わかこひくさの-ななくるま-おもひみたれて-やるかたもなし 
(新葉集~日文研HPより)

徒らにめくりもあはす恋草のなゝくるまゝて年はつめとも
(亀山殿五首歌合~群書類従12)

あさゆふに-おつるなみたや-こひくさの-しけみにすかる-つゆとなるらむ 
(太皇太后宮大進清輔朝臣家歌合~日文研HPより)

しらつゆの-しけきこひくさ-わくらはに-そてかけしひとや-つみはやしけむ 
(春夢草~日文研HPより)

寄霜恋
春秋の時そともなき恋草のかれぬ心にきゆる霜かな
(草根集~日文研HPより)