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古典和歌をメインにブログを書いてます。歌題ごとに和歌を四季に分類。

涙の雨

2021年06月06日 | 日本古典文学-人事

かさとりのやまとたのみしきみをおきてなみたのあめにぬれつつそゆく
(宗于集~日文研HPより)

 (東宮のかくれ給へる比よめる)
君まさぬ春の宮には桜花泪の雨にぬれつゝそふる
(紀貫之集~群書類従15)

こと女に物いふときゝて、もとのめの内侍のふすへ侍けれは よしふるの朝臣 
めもみえす涙の雨のしくるれは身のぬれきぬはひるよしもなし 
(後撰和歌集~国文学研究資料館HPより)

春雨の降る日
つれづれとふれば涙の雨なるを春のものとや人の見るらん
(和泉式部続集~岩波文庫)

いとせきかたき涙の雨のみふりまされはいとわりなくていつかたにもおほつかなきさまにてすくし給
(源氏物語・幻~「源氏物語大成」池田亀鑑編著)

後冷泉院くらゐにつかせ給ひけれは、さとにまかりいて侍りて又のとしの秋、東三条のつほねの前にうへて侍けるはきを人のおりてもてきたりけれは 麗景殿前女御 
こそよりも色こそこけれ萩の花涙の雨のかゝるかきりは(イかかる秋には)
(後拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)

ひとしれぬなみたのあめはふりそへとおもひはえこそけたれさりけれ
(久安百首-親隆~日文研HPより)

わかこひはなみたのあめのよにふりてそてよりほかにあらはれにけり
(六百番歌合~日文研HPより)

母のためにあはたくちの家にて仏供養し侍ける時、はらからみなまうてきあひてふるきおもかけなとさらにしのひ侍けるおりしも、雨かきくらしふりはへりけれはかへるとて、かの堂のしやうしにかきつけはへりける 右大将忠経 
誰もみな涙の雨にせきかねぬ空もいかゝはつれなかるへき 
(新古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

かきくらす涙の雨のあし繁みさかりにもののなげかしきかな
(山家和歌集~バージニア大学HPより)

平重時身まかりて後、仏事のおりしも雨のふりけるに、平長時かもとにつかはしける 中務卿親王 
思ひ出るけふしも空のかきくれてさこそなみたの雨とふるらめ 
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

三条入道内大臣女身まかりにける比 式部卿久明親王 
立のほる煙も雲も消にしをなみたの雨そはるゝよもなき 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

ふりまさるなみたのあめはうきくものはれぬおもひのゆくへなるらし 
(延文百首-通相~日文研HPより)

いかにせん涙の雨にかきくれてしたはむ月の影もわかねは
(鳥部山物語~バージニア大学HPより)

さはるぞと聞きて心や盡きぬらん
涙の雨のくらきともし火
(菟玖波集-藤原長泰~バージニア大学HPより)

かねてより山道つくられて木草きりはらひなどせられつれど露けさぞわけんかたなき。涙の雨のそふなるべし。 
(増鏡~国文学研究資料館HPより)

さしも心に懸けし花の。かつらもしぼむ涙の雨より散りくる花を慕ひ行けば。
(謡曲「泰山府君」~半魚文庫より)


法の雨・御法の雨

2021年06月05日 | 日本古典文学-人事

「のりのあめ(法の雨)」「みのりのあめ(御法の雨)」:仏法が衆生をあまねく教化して恵みを与えるのを、雨にたとえていう語。法雨(ほうう)。

 (法花経の心をよみし)
 薬草喩品
法の雨は草木もわかて注け共をのかした社うけまさりけれ
(巻第二百七十七・赤染衛門集)
『群書類従・第十五輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1987年、676ページ

 法師品
のりの雨にみながら清めつくしてはさはりの外をなにかたづねむ
(公任集)
『公任集全釈』風間書房、1989年、247ページ

 院の帝と今の帝とおはしましける時
日の光かさねて照れは紫のほしもふたつに色やなるらん
よそにきく袂のみ社そほちけれあまねく法の雨はそゝける
 返し
いつはらす心をよする法の雨のそゝくしるしにぬるゝ袖哉
(巻第二百七十三・伊勢集下)
『群書類従・第十五輯(訂正三版)』続群書類従完成会、1987年、558ページ

紫式部ためとて結縁経供養し侍ける所に、薬草喩品を送り侍とて 権大納言宗家 
法の雨に我もやぬれんむつましきわかむらさきの草のゆかりに 
(新勅撰和歌・釈教歌)~国文学研究資料館HPより

後白川院かくれさせ給て又の年、法花堂にまいりて聞法年久といふことをよみける 祝部宛仲 
法の雨ありしむかしにかはらねは千とせふるともたえしとそ思 
(続拾遺和歌集・釈教歌)~国文学研究資料館HPより

源家長朝臣、すゝめ侍ける一品経の歌中に、序品 前大納言為家 
またしらぬ空の光に降花は御法の雨のはしめ也けり 
(続後拾遺和歌集・釈教歌)~国文学研究資料館HPより

薬草喩品の心を 法成寺入道前関白太政大臣 
法の雨はあまねくそゝく物なれとうるふ草木はをのかしなしな 
(風雅和歌集・釈教歌)~国文学研究資料館HPより

山寺雨
法の雨ふらぬ日もなきしるしにや笠を置きけん峰の山寺 
(草根集)~日文研HPより

有難や妙なる法の教には、値事稀なる優曇華の、花待得たる芭蕉葉の、御法の雨も豊かなる、露の恵みを受くる身の、人衣の姿御覧ぜよ。
(謡曲「芭蕉」)
『岩波・新日本古典文学大系57』209p


寄瓮の水/依瓮の水/寄辺の水

2021年06月04日 | 日本古典文学-人事

 寄辺水(よりへの水)
   〈神社ノ前ニ瓶ヲ置テタマレル水也〉
さもこそはよりへの水に影絶めかけしあふひを忘るへしやは
(纂題和歌集~明治書院)

さもこそはよるへの水にかけたえめけふのあふひをわするへしやは
(源氏物語引哥~国文学研究資料館HPより)

あふひをかたわらにおきたりけるを・よりてとり給て・いかにとかや・このなこそわすれにけれとの給へは
さもこそはよるへのみつにみくさゐめけふのかさしよなさへわするる・とはちらひてきこゆ
(「尾州家河内本源氏物語」(幻)秋山虔・池田利夫編)

よるべの水の事、神の託(ヨリ)給ふ水にて、べは其水を入たる瓮(へ)也。
(「源氏物語湖月抄・下」講談社学術文庫)

みにちかくよるへのみつのかけはあれとよそにあふひのくさのなそうき
(夫木和歌抄-基家~日文研HPより)

 寄水恋二首
影(かげ)絶(た)えてさてややみなん水草(みくさ)ゐるよるべの水はすみかはるとも
(玉吟集~「和歌文学大系62」明治書院)

 (祈恋)
ひとしれぬわがねぎごとをたのむともいさやよるべのみづのこゝろは
(慶運集~「和歌文学大系65」明治書院)

 と言ひたれば、幣(みてぐら)のやうに、紙(かみ)をして書きてやる
神かけて君(きみ)はあらがふ誰(たれ)かさはよるべに溜(たま)るみづと言(い)ひける
(和泉式部集~岩波文庫)

祈不逢恋といへる心を 皇后宮 
神かきやよるへの水も名のみして祈る契りのなと淀むらん 
(続千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

月影はさえにけらしな神がきやよる辺の水につらゝゐるまで 清輔朝臣
 此の歌判者俊成卿云左歌よるべの水につらゝゐるまでなどいへる文字つゞきよろしくはみゆるをおぼつかなき事どもぞ侍めるまづよるべの水といふことは源氏の物がたりにもかものまつりの日の歌にさもこそはよるべの水もみくさゐめとよめりみたまべし(ふ脱歟)さらではふるき歌にもえ見及び侍らずこの水をおろおろ承はるにたとへばいづれの社にも侍らめどまづ当社のおまへの月にはうみのおもて氷をみがき浜のまさご玉をしけらむをばおきてよるべの水にむかひて月はさえにけらしなど思はむ事やいかゞと云々作者清輔朝臣云よるべの水はいづれの社にも侍るにこそ又歌によめる事源氏のみにあらず和泉式部集などは御覧ぜざりけるにや又月よむべき所はおほかれど風情に随ひてこそよめるかしをばすて山などをとりあつめてつくすべしと不存事なりをばすて山たかき名なりとて月の歌ごとにそれをよみて余山をよむまじきにやと云々
(夫木和歌抄~「校註国歌大系22」)

社頭水
影うつす神のよるへの水のこと清くすめるを心ともかな
(草根集~日文研HPより)

神楽
かつこほるよるへの水を結ふてのあか星うたふこゑもさむけし
(草根集~日文研HPより)

頼む誓ひは此神に、よるべの水を汲まうよ。
(謡曲「賀茂」~「新日本古典文学大系57」岩波書店)

シテ    「引かれてここによるべの水の。
地     「淺からざりし契りかな。
(謡曲「蝉丸」~バージニア大学HPより)


下水(したみづ)

2021年06月03日 | 日本古典文学-坤儀

承暦弐年内裏後番の歌合に、鶯をよめる 藤原顕綱朝臣 
春たては雪の下水うちとけて谷の鶯いまそなくなる 
(千載和歌集~国文学研究資料館HPより)

春きて猶雪
かすめども春をばよその空に見てとけむともなき雪のした水 
(山家和歌集~バージニア大学HPより)

余寒 公相 
けふもなほ松の嵐の音さえてまたとけやらぬ雪のした水
(宝治百首~日文研HPより)

つれもなきこすゑのゆきもきえそめてしつくににこるまつのしたみつ
(新葉集~日文研HPより)

うす氷清き鏡とみし物をさくらにくもる花のした水
(纂題和歌集~明治書院)

くれふかきいりのつつみのしたみつにこゑうちそへてかはつなくなり 
(為尹千首~日文研HPより)

このしまの森の下水ひきかけてしめのあたりに早苗取るなり 後九条内大臣家大夫
(夫木和歌抄~「校註国歌大系21」)

いはかねにけふもかたしくこけのそてむすふもすすしまつのしたみつ 
(嘉元百首-実兼~日文研HPより)

新玉津島社三十首歌に、おなし心(納涼)を 西園寺前内大臣女 
すゝしさは夏の外なるすみかゝな山の岩ねの松の下水 
(新続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

ひかけこぬならのしたみつすすしさにけふこそなつをしらてすきぬれ 
(為家五社百首~日文研HPより)

題しらす 入道前太政大臣 
秋ちかき谷の松風をとたてゝゆふ山すゝし岩のした水 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

みなせ川この葉さやけき松風に鹿の音あらふきりのした水 慈鎮和尚
(夫木和歌抄~「校註国歌大系21」)

琵琶の道につきていさゝかうれふる事侍りける、祈申さんため妙音堂へまいりける折ふし、雪深くふりて侍けれは 入道前太政大臣 
をとたえてむせふ道にはなやむともむもれなはてそ雪の下水 
(玉葉和歌集~国文学研究資料館HPより)

ふゆのよのこほりはさもやとけさらむおもひもよらすそてのしたみつ 
(経信集~日文研HPより)

いかにせむゆきのしたみつうちとけてなになかれなむことをこそおもへ
(堀河百首-前斎宮河内~日文研HPより)

ひとしれぬこころのほかにもるものはおさへてむせふそてのしたみつ 
(明日香井集~日文研HPより)


むもれ水/うもれ水

2021年06月02日 | 日本古典文学-坤儀

しらせはやこのはかくれのうもれみつしたになかれてたえぬこころを
(兼好法師集~日文研HPより)

夏草のしげみがしたのむもれ水かよふ心を知る人もなし
(拾藻鈔)

やまふかみしたゆくたにのうもれみつせくももらすもひとしれすのみ 
(飛鳥井集~日文研HPより)

さみたれにゆけのかはらのうもれみつあらはれてこそなかれきにけれ 
(歌枕名寄~日文研HPより)

くさふかみみえぬさはへのうもれみつありとやここにとふほたるかな 
(草庵集~日文研HPより)

(たいしらす) 大江頼重 
かすならて世にふる川のうもれ水行かたもなくぬるゝ袖哉 
(続古今和歌集~国文学研究資料館HPより)

宝治百首歌奉りける時、山家水 前参議忠定 
山ふかく世にすみかぬるむもれ水やるかたもなき我心かな 
(続拾遺和歌集~国文学研究資料館HPより)