4年前の6月、
『北の大地へ』と題する詩を添えて、
友人や知人に、伊達への転居葉書を出した。
その知らせに、多くの方から返信を頂いた。
驚きや励ましと共に、それぞれ想いが記され、
その全てが、今も私の力になっている。
その後、伊達で初めての夏を過ごし、そして初秋。
その心情を、『我逢人』と題する詩にした。
返信を頂戴した方々に、『暑秋見舞』と称し、
それを載せた葉書を、再び送った。
我 逢 人
恋人海岸という名の長い砂浜
若い二人が太陽を背にする姿がいい
しかし そこに人影を見たことはない
6月の街を賑わすアヤメ
紫の花が好きな私の心が踊った
それから沢山の花たちが朝の散策を彩り
どこの庭先でも花の手入れに余念がない
それはきっと長い日々を
寒気に鎖され遮られるからではと
あまりに広大な田畑
あの中に一日一人置かれたら
私は間違いなく泣き出す
心細さと頼りなさに慣れたりなどできない
しかし そこでもくもくと汗する人を見る
今まで目にしなかった光景
新しい息吹きをもらいながら
私は今日を
我逢人(がほうじん):人と逢うことから全てが始まるの意
それから、私は、ずっと『我逢人』でいる。
その一端を記す。
◆ 夏休みになった。
2週間だが、小学生のラジオ体操が、近所の公園広場であった。
毎年、家内と欠かさず参加している。
例年、思いのほか子どもも大人も少ない。
それでも、子ども達と一緒に過ごす時間は、貴重で楽しい。
体操の曲に合わせ、懸命に体を動かす小さな姿、
それを見ながら、私も体を動かす。
つい笑顔になってしまう朝である。
さて、つい1週間程前になる。
ラジオ体操が終わり、
顔馴染みになったご近所のご主人と、
挨拶がてら言葉を交わした。
彼は、ゴルフのスイングをくり返しながら、
言い出した。
「明日から、2,3日、雨のようですね。」
「そうみたいですね。」
彼は、すかさず、
「しばらくパーク、できなくなりますよ。」
「行かれるんですか。」
「ええ、行こうかと。」
「どなたか、お相手が。」
「今のところウチのと二人。」
「そうですか。」
そんな会話に、
パークゴルフの達人さんが近寄ってきていた。
「ご一緒してもいいですか。」
私は遠慮がちに言ってみた。
本来ならゴルフなのだが、
だいぶ良くなった右腕の再発が怖くて、
でも、パークゴルフならばと、
昨年の秋から、見よう見まねで始めてみた。
それはそれで、なかなか楽しいのだ。
「どうぞ、どうぞ。」と、彼は明るかった。
「何時からにしますか。」
「12時半で、どうですか。」
そこまで話が進んだ時だ。
全く話に加わっていなかった達人さんが、突然、
「わかりました。12時半ね。」
「えっ、ご一緒に?!」
目を丸くする私に、当然と言った顔で達人さんがうなづいた。
楽しくなる予感がした。
少年のように、ワクワクした。
約束の時間、パークゴルフ場には、
8名もの好き者が集まってきた。
「いやいや。」「どうもどうも。」
と、言いあいながら、前から予定されていたかのような顔と顔。
2組に分かれてラウンドが始まった。
海辺近くのパークゴルフ場だ。
やれ「ナイスショット!」だ。
「なんで、入らないの?」だの。
「ヨシ、ヨシ!」の呟きやら・・・。
明日からの雨を予感させるように白波が立つ海。
そのそばで、夢中でボールを打つ同世代。
ワイワイ、ガヤガヤが時を忘れさせた。
◆ 我が家から、数百メートルの所に、
旧シャミチセ川沿いの小道がある。
週に1回は、そこを朝の散歩道にしている。
1ヶ月以上も前になるだろうか。
その小川の脇に、
1メートル四方程の小さな金網の囲いができた。
『この中に、カルガモのヒナがいます。
市からの依頼で、育てています。』
と、張り紙があった。
加えて、北海道知事の鳥獣保護員の証書コピーも。
囲いの中では、2羽のヒナが忙しく動いていた。
家内と足を止めた。
そこに、すぐ横の家から、平皿に手作りのエサを盛って、
歩み寄る方がいた。私よりやや年上だろうか。
鳥獣保護員の方だと思った。
その方は、挨拶もそこそこに話し始めた。
「市から連絡を受けて預かった時は、
10羽いたけど、2羽になってしまった。」
親鳥と一緒に移動している最中に、
ヒナたちが次々と側溝に落ちてしまったらしい。
親は、どうすることもできなかった。
それで、市から連絡があり、鳥獣保護員の出番になった。
弱っていたヒナに、急いでエサを与えた。
エサが合わなかったのか、食べ過ぎだったのか、
お腹が大きく膨らみ、8羽が亡くなった。
「それでも、この2羽が生き延びてくれた。」
金網の囲いのそばで、腰を下ろしたまま、
穏やかな口調が続いた。
年に数回、伊達市などから依頼を受けて、
野生動物の保護や世話をするらしい。
散歩中の朝のわずかな時間だったが、
その貴重な体験談は、私の心に浸みた。
子雀が飛べなくなり、保護することになった。
家に持ち帰り世話をした。
少しずつエサをついばみ、元気を取り戻した。
『チッチ』と名づけて、かわいがった。
やがて家中を飛び回るまでに回復した。
窓を開けてやった。
数日、チッチは家の近くの小枝にいた。
ある日、母親らしい雀と鳴き交わしていた。
やがて2羽とも姿が見えなくなった。
その後しばらくして、家の周りを飛ぶ雀たちがいた。
その1羽がチッチだと分かった。
「チッチ」と呼ぶと、羽をバタバタさせた。
「今も時々来るんだ。可愛いよ。
ちゃんと私が分かってるんだ。」
嬉しそうに話す、その顔がまぶしかった。
そして、もう一つ。
ある年、巣から落ちたヤマツバメのヒナを、
5羽預かった。
思いのほか順調に育ってくれた。
次第に飛べるようになり、巣立ちの時が来た。
市内のT公園の辺りから、ヤマツバメは旅立つと知っていた。
それで、鳥かごに入れて、その公園に連れて行った。
放してやると、5羽は近くの枝に並んで止まり、
名残惜しそうにしていた。
実は、その中の1羽が気がかりだった。
食も細く、飛び方も弱々しかった。
心がさわぐので、翌日、再びT公園に行ってみた。
昨日の枝のそばに、1羽の死骸があった。
「本当にかわいそうなことをした。
あの1羽だけは、もうしばらく世話をしてやればよかった。
後悔しているんだ。」
初夏の朝日が明るく降りそそいでいた小道。
目を真っ赤にしながら、
初対面の私共に話してくださった。
心が打たれた。
「そうでしたか。」
私には、それしか言葉が探せなかった。
また一つ「優しさ」に出会えた。
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カボチャ畑の一輪
『北の大地へ』と題する詩を添えて、
友人や知人に、伊達への転居葉書を出した。
その知らせに、多くの方から返信を頂いた。
驚きや励ましと共に、それぞれ想いが記され、
その全てが、今も私の力になっている。
その後、伊達で初めての夏を過ごし、そして初秋。
その心情を、『我逢人』と題する詩にした。
返信を頂戴した方々に、『暑秋見舞』と称し、
それを載せた葉書を、再び送った。
我 逢 人
恋人海岸という名の長い砂浜
若い二人が太陽を背にする姿がいい
しかし そこに人影を見たことはない
6月の街を賑わすアヤメ
紫の花が好きな私の心が踊った
それから沢山の花たちが朝の散策を彩り
どこの庭先でも花の手入れに余念がない
それはきっと長い日々を
寒気に鎖され遮られるからではと
あまりに広大な田畑
あの中に一日一人置かれたら
私は間違いなく泣き出す
心細さと頼りなさに慣れたりなどできない
しかし そこでもくもくと汗する人を見る
今まで目にしなかった光景
新しい息吹きをもらいながら
私は今日を
我逢人(がほうじん):人と逢うことから全てが始まるの意
それから、私は、ずっと『我逢人』でいる。
その一端を記す。
◆ 夏休みになった。
2週間だが、小学生のラジオ体操が、近所の公園広場であった。
毎年、家内と欠かさず参加している。
例年、思いのほか子どもも大人も少ない。
それでも、子ども達と一緒に過ごす時間は、貴重で楽しい。
体操の曲に合わせ、懸命に体を動かす小さな姿、
それを見ながら、私も体を動かす。
つい笑顔になってしまう朝である。
さて、つい1週間程前になる。
ラジオ体操が終わり、
顔馴染みになったご近所のご主人と、
挨拶がてら言葉を交わした。
彼は、ゴルフのスイングをくり返しながら、
言い出した。
「明日から、2,3日、雨のようですね。」
「そうみたいですね。」
彼は、すかさず、
「しばらくパーク、できなくなりますよ。」
「行かれるんですか。」
「ええ、行こうかと。」
「どなたか、お相手が。」
「今のところウチのと二人。」
「そうですか。」
そんな会話に、
パークゴルフの達人さんが近寄ってきていた。
「ご一緒してもいいですか。」
私は遠慮がちに言ってみた。
本来ならゴルフなのだが、
だいぶ良くなった右腕の再発が怖くて、
でも、パークゴルフならばと、
昨年の秋から、見よう見まねで始めてみた。
それはそれで、なかなか楽しいのだ。
「どうぞ、どうぞ。」と、彼は明るかった。
「何時からにしますか。」
「12時半で、どうですか。」
そこまで話が進んだ時だ。
全く話に加わっていなかった達人さんが、突然、
「わかりました。12時半ね。」
「えっ、ご一緒に?!」
目を丸くする私に、当然と言った顔で達人さんがうなづいた。
楽しくなる予感がした。
少年のように、ワクワクした。
約束の時間、パークゴルフ場には、
8名もの好き者が集まってきた。
「いやいや。」「どうもどうも。」
と、言いあいながら、前から予定されていたかのような顔と顔。
2組に分かれてラウンドが始まった。
海辺近くのパークゴルフ場だ。
やれ「ナイスショット!」だ。
「なんで、入らないの?」だの。
「ヨシ、ヨシ!」の呟きやら・・・。
明日からの雨を予感させるように白波が立つ海。
そのそばで、夢中でボールを打つ同世代。
ワイワイ、ガヤガヤが時を忘れさせた。
◆ 我が家から、数百メートルの所に、
旧シャミチセ川沿いの小道がある。
週に1回は、そこを朝の散歩道にしている。
1ヶ月以上も前になるだろうか。
その小川の脇に、
1メートル四方程の小さな金網の囲いができた。
『この中に、カルガモのヒナがいます。
市からの依頼で、育てています。』
と、張り紙があった。
加えて、北海道知事の鳥獣保護員の証書コピーも。
囲いの中では、2羽のヒナが忙しく動いていた。
家内と足を止めた。
そこに、すぐ横の家から、平皿に手作りのエサを盛って、
歩み寄る方がいた。私よりやや年上だろうか。
鳥獣保護員の方だと思った。
その方は、挨拶もそこそこに話し始めた。
「市から連絡を受けて預かった時は、
10羽いたけど、2羽になってしまった。」
親鳥と一緒に移動している最中に、
ヒナたちが次々と側溝に落ちてしまったらしい。
親は、どうすることもできなかった。
それで、市から連絡があり、鳥獣保護員の出番になった。
弱っていたヒナに、急いでエサを与えた。
エサが合わなかったのか、食べ過ぎだったのか、
お腹が大きく膨らみ、8羽が亡くなった。
「それでも、この2羽が生き延びてくれた。」
金網の囲いのそばで、腰を下ろしたまま、
穏やかな口調が続いた。
年に数回、伊達市などから依頼を受けて、
野生動物の保護や世話をするらしい。
散歩中の朝のわずかな時間だったが、
その貴重な体験談は、私の心に浸みた。
子雀が飛べなくなり、保護することになった。
家に持ち帰り世話をした。
少しずつエサをついばみ、元気を取り戻した。
『チッチ』と名づけて、かわいがった。
やがて家中を飛び回るまでに回復した。
窓を開けてやった。
数日、チッチは家の近くの小枝にいた。
ある日、母親らしい雀と鳴き交わしていた。
やがて2羽とも姿が見えなくなった。
その後しばらくして、家の周りを飛ぶ雀たちがいた。
その1羽がチッチだと分かった。
「チッチ」と呼ぶと、羽をバタバタさせた。
「今も時々来るんだ。可愛いよ。
ちゃんと私が分かってるんだ。」
嬉しそうに話す、その顔がまぶしかった。
そして、もう一つ。
ある年、巣から落ちたヤマツバメのヒナを、
5羽預かった。
思いのほか順調に育ってくれた。
次第に飛べるようになり、巣立ちの時が来た。
市内のT公園の辺りから、ヤマツバメは旅立つと知っていた。
それで、鳥かごに入れて、その公園に連れて行った。
放してやると、5羽は近くの枝に並んで止まり、
名残惜しそうにしていた。
実は、その中の1羽が気がかりだった。
食も細く、飛び方も弱々しかった。
心がさわぐので、翌日、再びT公園に行ってみた。
昨日の枝のそばに、1羽の死骸があった。
「本当にかわいそうなことをした。
あの1羽だけは、もうしばらく世話をしてやればよかった。
後悔しているんだ。」
初夏の朝日が明るく降りそそいでいた小道。
目を真っ赤にしながら、
初対面の私共に話してくださった。
心が打たれた。
「そうでしたか。」
私には、それしか言葉が探せなかった。
また一つ「優しさ」に出会えた。

カボチャ畑の一輪