冷え込んだ朝、サンダル履きで外へ出てみた。
すっかり冬の外気だった。
頬を刺すような冷たさの中、
しっかりと防寒した少年5人組の話し声が、
近づいて来た。
私に気づき朝の挨拶する息が、マスク越しに白い。
遂に、長い冬が始まった。
昨年は、雪が多かった。
今年はどうなのだろう。
毎日のコロナ感染者数も増えている。
当地は記録を更新したとか・・。
インフルエンザの同時流行も気になる。
ここで11回目の冬だが、
あるがまま、ありのままを受け止めるしか・・・。
雪も、寒さも、同時流行も、
きっとなんとか乗り越えられるサ。
目の前を通り過ぎ、揺れる少年らのランドセルに、
「いってらっしゃい」と言いながら、
自分を励ましていた。
先日、10年が過ぎた節目にと、
自室の配置換えをした。
一緒に、引き出しの整理も・・・。
差し出した賀状や葉書の控えが出てきた。
手を休め、それらに添えた詩を追った。
時々の想いと共に、
牛歩のようだが、私の『一歩また一歩』があった。
列記し、確かめるみることに!
… … … … …
《2012年6月 転居のお知らせ》
北の大地へ
噴火湾に向かって
なだらかな扇状地が広がる
私はそこをこれからの地にした
好運と人に恵まれた
40年の現役生活には
ただただ胸も目頭も熱くなる
冷えるものなど何もない
そう この先もそのまま生きることを
誰も否定したりしない
しかし私を揺り動かすものが
少しの未練をもった退去と
難しさを承知の一歩を求め
どこまでも澄んだ大空
すぐそこの濃い山々
急き立てられない時の流れ
本来の営みを手に
ここで一歩また一歩
確かな想いを刻んでみたい
= 意気込み満載の一歩を踏み出す。
曖昧だが、新天地の私に何かを期待していたよう =
… … … … …
《2012年9月 転居通知に返信があった方へ近況報告》
我 逢 人
恋人海岸という名の長い砂浜
若い二人が太陽を背にする姿がいい
しかし そこに人影を見ることはない
6月の街を賑わすアヤメ
紫の花が好きな私の心が踊った
それから沢山の花たちが朝の散策を彩り
どこの庭先でも花の手入れに余念がない
それはきっと長い日々を
寒気に鎖され遮られるからではと
あまりに広大な畑
あの中に一日一人置かれたら
私は間違いなく泣き出す
心細さと頼りなさに慣れたりなどできない
しかし そこでもくもくと汗する人を見る
今まで目にしなかった光景
新しい息吹をもらいながら
私は今日を
= 「人と逢うことから全ては始まる」(我逢人の意)の教えを信じ、
北の大地の人影を遠くから追っていた =
… … … … …
《2013年の年賀状》
微 笑
収穫の後に蒔いた種が
凍て付く地から陽春を待ち
雪融けと共に畑に力があふれる
暑い風を受けたそれは
穂並の全てを黄金色に
透明な風に輝く秋まき小麦
私が見た
北国の残夏の一色
小高い丘に群生する紅色が
彼岸の時季を知らせてくれたのに
この地に曼珠沙華はない
でも列をなす清純な淡紫色に
“こんな所に咲いて”と近寄ってみる
それは木漏れ日に揺れるコルチカム
私が見た
北国の秋晴の一色
落陽キノコは唐松林にしかない
その唐松は針葉樹なのに
橙色に染まり落葉する
道は細い橙色におおわれ
風までがその色に舞う
そこまで来ている白い季節の前で
私が見た
北国の深秋の一色
= 転居から半年が過ぎた。40年ぶりに見る故郷は、
一刻一刻景色を変えた。ただそれに見とれ、日々が過ぎた =
… … … … …
《2015年の年賀状》
洗 心
新雪で染まった山々の連なりを遠くに
晴れわたった土色の台地のふもと
畑から掘り出したビートが長い山を作るのも
去年と同じなのでしょうか
沖合を漂う木の葉色の小舟を載せて
波間の大波小波は遠慮を知らない
黒い海原のざわめきに身を任すのも
いつものことなのでしょうか
積み重ねた白い牧草ロールのとなりで
地吹雪に腰折れ屋根の飼育舎がつつまれ
悲しい瞳をした雄牛をトラックの荷台が待つのも
どこにでもあることなのでしょうか
すぐそばで続く営みの数々に
思わず足を止める私
黙々とした淡々とした悠々とした後ろ姿がまぶしい
額に手を当て
まだまだ私だって磨けばと呟いてみる
= 2月だった。多忙なスケジュールを割いて、
東京から友人が来た。
3時間の滞在後、私の年賀状を片手にかざし
「これを見て来た。頑張れ!」と言い残して帰った =
… … … … …
《2017年の年賀状》
遅 い 春
寒々とした小枝の新芽が弾け
息吹きを取り戻したのは何度も見てきたから
どうしてそんな無茶をと問われて
手が届きそうな気がしてと答えてみた
遅咲きの桜が並ぶ湖畔ににぎわうランナー
それに飲み込まれ先が見えない私
やがてそこら中に新緑が陽を受け
色とりどりに咲き誇るのを何度も見てきたから
途中でリタイアする勇気を持ての助言に
必ずゴールインをと意気込んでみた
ガラス色の細波のそばをまばらなランナー
それでも重くなった足で前を見据える私
初の42,195キロは完走後に号泣さと先輩ランナー
その感情を走路に置き忘れてきた私
潤んだ声で「頑張ったね」の出迎えに
言葉のない小さな微笑みが精一杯
いつしか洞爺の湖面に流れる春風がそっと肩を
初めての心地よさにしばらくは酔っていた
= 68歳で初のフルマラソンに挑戦。
思いもしない方から激励の葉書が届いたりして、
支えの数々に背中を押されて、ゴール。
『私だって』を1つクリアしたような =
… … … … …
《2019年の年賀状》
色 彩 豊 富
赤や黄 青色の風船を膨らませたい
その風船が誰かに届くといい
だから
八雲の放牧牛が見ているマラソン道を
ひとり淡々と走っていた
月数回だがキーボードと向き合い
足あとに想いを載せて綴ってみた
突然 この街で出逢った人々との
小さな物語を語る機会に恵まれた
なので
やがて来る衰えなど 無関心
無理しないでの声など 完全無視
まして老いの手解きなど 無礼千万
そして 今年も
ピンクや黄緑 真白な風船を
いっぱい膨らませ空へ空へ
= マラソン大会に、週一ブログの執筆に、
この街での講演会講師にと、
「人はみんな無年齢だ」と呟きながら、
アクティブに =
… … … … …
《2021年の年賀状》
折々の 光景
朝ランの途中 突然の通り雨
近づくピンク色のランニングシューズが
湿ったショートカットで すれ違う
“雨だよ足もと気をつけて”
私の忠告に背後から
ピュアな弾んだ声が
“はーい ありがとうございます”
おおっ これは春の雨
その時 一瞬コロナを忘れた
庭にアルケミラが花やか
そうだ 今朝の仏壇に供えよう
早々 一本また一本 鋏を入れる
摘んだ七本を束ね かざしてみる
朝の日差しがよく似合う
あの時 一瞬コロナを忘れた
入り日が沢山のススキを銀色に染め
すぐそばで掘り出されたビートが山に
先日 その畑に白鳥が舞いおりた
百羽が鳴き交わす健やかな声に
私から寒さが消えた
折々の光景に 一瞬コロナを忘れて
= 世界が揺れているコロナ禍でも、
黙々と淡々と悠々とした後ろ姿が私を励ます。
だから、私らしく一日一日を! =
今年も ビートの山 出現
すっかり冬の外気だった。
頬を刺すような冷たさの中、
しっかりと防寒した少年5人組の話し声が、
近づいて来た。
私に気づき朝の挨拶する息が、マスク越しに白い。
遂に、長い冬が始まった。
昨年は、雪が多かった。
今年はどうなのだろう。
毎日のコロナ感染者数も増えている。
当地は記録を更新したとか・・。
インフルエンザの同時流行も気になる。
ここで11回目の冬だが、
あるがまま、ありのままを受け止めるしか・・・。
雪も、寒さも、同時流行も、
きっとなんとか乗り越えられるサ。
目の前を通り過ぎ、揺れる少年らのランドセルに、
「いってらっしゃい」と言いながら、
自分を励ましていた。
先日、10年が過ぎた節目にと、
自室の配置換えをした。
一緒に、引き出しの整理も・・・。
差し出した賀状や葉書の控えが出てきた。
手を休め、それらに添えた詩を追った。
時々の想いと共に、
牛歩のようだが、私の『一歩また一歩』があった。
列記し、確かめるみることに!
… … … … …
《2012年6月 転居のお知らせ》
北の大地へ
噴火湾に向かって
なだらかな扇状地が広がる
私はそこをこれからの地にした
好運と人に恵まれた
40年の現役生活には
ただただ胸も目頭も熱くなる
冷えるものなど何もない
そう この先もそのまま生きることを
誰も否定したりしない
しかし私を揺り動かすものが
少しの未練をもった退去と
難しさを承知の一歩を求め
どこまでも澄んだ大空
すぐそこの濃い山々
急き立てられない時の流れ
本来の営みを手に
ここで一歩また一歩
確かな想いを刻んでみたい
= 意気込み満載の一歩を踏み出す。
曖昧だが、新天地の私に何かを期待していたよう =
… … … … …
《2012年9月 転居通知に返信があった方へ近況報告》
我 逢 人
恋人海岸という名の長い砂浜
若い二人が太陽を背にする姿がいい
しかし そこに人影を見ることはない
6月の街を賑わすアヤメ
紫の花が好きな私の心が踊った
それから沢山の花たちが朝の散策を彩り
どこの庭先でも花の手入れに余念がない
それはきっと長い日々を
寒気に鎖され遮られるからではと
あまりに広大な畑
あの中に一日一人置かれたら
私は間違いなく泣き出す
心細さと頼りなさに慣れたりなどできない
しかし そこでもくもくと汗する人を見る
今まで目にしなかった光景
新しい息吹をもらいながら
私は今日を
= 「人と逢うことから全ては始まる」(我逢人の意)の教えを信じ、
北の大地の人影を遠くから追っていた =
… … … … …
《2013年の年賀状》
微 笑
収穫の後に蒔いた種が
凍て付く地から陽春を待ち
雪融けと共に畑に力があふれる
暑い風を受けたそれは
穂並の全てを黄金色に
透明な風に輝く秋まき小麦
私が見た
北国の残夏の一色
小高い丘に群生する紅色が
彼岸の時季を知らせてくれたのに
この地に曼珠沙華はない
でも列をなす清純な淡紫色に
“こんな所に咲いて”と近寄ってみる
それは木漏れ日に揺れるコルチカム
私が見た
北国の秋晴の一色
落陽キノコは唐松林にしかない
その唐松は針葉樹なのに
橙色に染まり落葉する
道は細い橙色におおわれ
風までがその色に舞う
そこまで来ている白い季節の前で
私が見た
北国の深秋の一色
= 転居から半年が過ぎた。40年ぶりに見る故郷は、
一刻一刻景色を変えた。ただそれに見とれ、日々が過ぎた =
… … … … …
《2015年の年賀状》
洗 心
新雪で染まった山々の連なりを遠くに
晴れわたった土色の台地のふもと
畑から掘り出したビートが長い山を作るのも
去年と同じなのでしょうか
沖合を漂う木の葉色の小舟を載せて
波間の大波小波は遠慮を知らない
黒い海原のざわめきに身を任すのも
いつものことなのでしょうか
積み重ねた白い牧草ロールのとなりで
地吹雪に腰折れ屋根の飼育舎がつつまれ
悲しい瞳をした雄牛をトラックの荷台が待つのも
どこにでもあることなのでしょうか
すぐそばで続く営みの数々に
思わず足を止める私
黙々とした淡々とした悠々とした後ろ姿がまぶしい
額に手を当て
まだまだ私だって磨けばと呟いてみる
= 2月だった。多忙なスケジュールを割いて、
東京から友人が来た。
3時間の滞在後、私の年賀状を片手にかざし
「これを見て来た。頑張れ!」と言い残して帰った =
… … … … …
《2017年の年賀状》
遅 い 春
寒々とした小枝の新芽が弾け
息吹きを取り戻したのは何度も見てきたから
どうしてそんな無茶をと問われて
手が届きそうな気がしてと答えてみた
遅咲きの桜が並ぶ湖畔ににぎわうランナー
それに飲み込まれ先が見えない私
やがてそこら中に新緑が陽を受け
色とりどりに咲き誇るのを何度も見てきたから
途中でリタイアする勇気を持ての助言に
必ずゴールインをと意気込んでみた
ガラス色の細波のそばをまばらなランナー
それでも重くなった足で前を見据える私
初の42,195キロは完走後に号泣さと先輩ランナー
その感情を走路に置き忘れてきた私
潤んだ声で「頑張ったね」の出迎えに
言葉のない小さな微笑みが精一杯
いつしか洞爺の湖面に流れる春風がそっと肩を
初めての心地よさにしばらくは酔っていた
= 68歳で初のフルマラソンに挑戦。
思いもしない方から激励の葉書が届いたりして、
支えの数々に背中を押されて、ゴール。
『私だって』を1つクリアしたような =
… … … … …
《2019年の年賀状》
色 彩 豊 富
赤や黄 青色の風船を膨らませたい
その風船が誰かに届くといい
だから
八雲の放牧牛が見ているマラソン道を
ひとり淡々と走っていた
月数回だがキーボードと向き合い
足あとに想いを載せて綴ってみた
突然 この街で出逢った人々との
小さな物語を語る機会に恵まれた
なので
やがて来る衰えなど 無関心
無理しないでの声など 完全無視
まして老いの手解きなど 無礼千万
そして 今年も
ピンクや黄緑 真白な風船を
いっぱい膨らませ空へ空へ
= マラソン大会に、週一ブログの執筆に、
この街での講演会講師にと、
「人はみんな無年齢だ」と呟きながら、
アクティブに =
… … … … …
《2021年の年賀状》
折々の 光景
朝ランの途中 突然の通り雨
近づくピンク色のランニングシューズが
湿ったショートカットで すれ違う
“雨だよ足もと気をつけて”
私の忠告に背後から
ピュアな弾んだ声が
“はーい ありがとうございます”
おおっ これは春の雨
その時 一瞬コロナを忘れた
庭にアルケミラが花やか
そうだ 今朝の仏壇に供えよう
早々 一本また一本 鋏を入れる
摘んだ七本を束ね かざしてみる
朝の日差しがよく似合う
あの時 一瞬コロナを忘れた
入り日が沢山のススキを銀色に染め
すぐそばで掘り出されたビートが山に
先日 その畑に白鳥が舞いおりた
百羽が鳴き交わす健やかな声に
私から寒さが消えた
折々の光景に 一瞬コロナを忘れて
= 世界が揺れているコロナ禍でも、
黙々と淡々と悠々とした後ろ姿が私を励ます。
だから、私らしく一日一日を! =
今年も ビートの山 出現