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先日、NHKで放送されたドキュメンタリー「秩父山中 花のあとさき」は、埼玉県秩父山中の急峻の地に畑を耕し、花を植え続けてきた小林ムツさんを追いかけ続けたシリーズの完結編だった。数年前、最初にこのドキュメンタリーを見た時はまだ、連れ合いの公一さんも健在だった。清冽な水を求めて、先祖が険しい山に分け入り、子々孫々までと願って労苦を厭わず築き上げた石垣の上に開かれた畑。二人はこの畑を守り続けてきた。しかし、2006年9月に公一さんに先立たれ、体力の限界も近いことを感じたムツさんは「畑が荒れ果てていくのはしのびない」と、畑に花を咲かせて山に返すことにした。まるで自分の身代わりにするように花ももの木を植えるムツさんの姿が心を打つ。ムツさんがいなくなった畑には、今年も同じように花が咲き誇っている。日本人とは?日本人の心とは?そんなことも考えさせられる素晴らしいドキュメンタリーだった。