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墓の場所がわからないのでインターフォンを押すと、しばらくして奥様と思しき方が出て来られた。「永田稲さんのお墓は?」と尋ねると、「あゝおてもやんを作られた方ですね」と、本堂裏手の墓の位置を教えていただいた。雨で水たまりの出来た通路を通って裏へ回ると、予想したよりも小さい墓が雨に打たれてひっそりと佇んでいた。墓石の頭に刻まれた舞扇がまず目に入った。そして「亀」の文字を囲む亀甲紋の下に「亀甲屋嵐亀之助之墓」と彫られていた。そこで「おてもやん」の作者である前に、女歌舞伎の座長であったことをあらためて認識する。お供物の代わりなのか小銭がいっぱい並べられていた。何も持って行かなかったので僕も100円玉を置いてお参りをした。命日なのにこの雨だ。はたして誰か他にお参りに来るだろうか。
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