4月30日の天皇陛下「退位礼正殿の儀」晩餐会や、10月23日の新天皇の即位儀式に出席した外国元首らを招く首相夫妻主催晩さん会で催す文化行事の総合アドバイザーに、狂言師の野村萬斎さんが選ばれたというニュースが流れていた。萬斎さんは2020年東京オリンピック開閉会式を演出する総合統括にも既に選ばれている。この国を挙げての行事の萬斎さん頼みにはちょっと驚く。能楽狂言の世界にとどまらず、映画、テレビなど彼の活躍ぶりは目を瞠るばかりだが、それは彼自身の才能や識見などが他に抜きんでたものがあるからなのだろう。
昨年7月、福岡の大濠公園能楽堂で行われた「狩野琇鵬三回忌追善能」を観に行った時、こんなことがあった。隣り合わせに座った能歴70年というご婦人が、最初の演目、能「巴」が終わり、次の狂言「泣尼」が始まろうという時、「ちょっとトイレ休憩」と言って席を立った。これから人間国宝の山本東次郎師が出て来るというのにである。同じようなことは熊本の水前寺成趣園能楽殿でも何度か経験したことがある。
今日、能楽と呼ばれる伝統芸能は能、狂言と、その上に位する式三番(翁)を含めたものをいう。能も狂言も600年を超える歴史を有し、ともに重要無形文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。しかし、狂言は能より格下と見なされてきた永い歴史がある。能楽公演ではシテ方能楽師が仕切り、そのもとでワキ方、狂言方、囃子方の三役が役割を務めるという図式が確立されている。番組の中の狂言は、ややもすれば添えもの的な扱いをされ、能の中で演じられる「アイ狂言」も、前シテから後シテへの着替えの時間を持たせるために始まったともいわれている。
そんな歴史を思うと、今日の狂言師野村萬斎の突出ぶりはまさに歴史的な存在と言うべきだろう。おそらく彼が拠って立つ精神基盤は、能楽の中でも最高位に位置づけられる式三番において、主役ともいうべき「三番叟」が狂言師の役割であることにあるのではないかと思うのである。
昨年7月、福岡の大濠公園能楽堂で行われた「狩野琇鵬三回忌追善能」を観に行った時、こんなことがあった。隣り合わせに座った能歴70年というご婦人が、最初の演目、能「巴」が終わり、次の狂言「泣尼」が始まろうという時、「ちょっとトイレ休憩」と言って席を立った。これから人間国宝の山本東次郎師が出て来るというのにである。同じようなことは熊本の水前寺成趣園能楽殿でも何度か経験したことがある。
今日、能楽と呼ばれる伝統芸能は能、狂言と、その上に位する式三番(翁)を含めたものをいう。能も狂言も600年を超える歴史を有し、ともに重要無形文化財に指定され、ユネスコ無形文化遺産に登録されている。しかし、狂言は能より格下と見なされてきた永い歴史がある。能楽公演ではシテ方能楽師が仕切り、そのもとでワキ方、狂言方、囃子方の三役が役割を務めるという図式が確立されている。番組の中の狂言は、ややもすれば添えもの的な扱いをされ、能の中で演じられる「アイ狂言」も、前シテから後シテへの着替えの時間を持たせるために始まったともいわれている。
そんな歴史を思うと、今日の狂言師野村萬斎の突出ぶりはまさに歴史的な存在と言うべきだろう。おそらく彼が拠って立つ精神基盤は、能楽の中でも最高位に位置づけられる式三番において、主役ともいうべき「三番叟」が狂言師の役割であることにあるのではないかと思うのである。
