徒然なか話

誰も聞いてくれないおやじのしょうもない話

オフィーリア

2025-02-01 21:36:00 | 文芸
 昨日、マリアンヌ・フェイスフルさんの訃報のことを書きながら、かつて彼女がトニー・リチャードソン監督の映画「ハムレット」でオフィーリアを演じたことをふと思い出した。
 その数日前、NHK-Eテレで妙なミュージックビデオを見た。「オフィーリア、まだまだ」というタイトルで、NHKの紹介記事にはこう書かれている。

--シェークスピアの戯曲の一場面を描いた「オフィーリア」(ミレイ画)。川に流され溺死を待つばかりの主人公が「背泳ぎは得意」と思い出して力強く泳ぎ出す様子を想像して曲を作った。「♪まだまだ溺れちゃいられないのよ」という歌詞は、ブルーな気持ちになっているすべての人に贈る応援歌!--

   ※絵をクリックするとYouTubeの映像が再生されます。

 そういえば随分前、ミレーの「オフィーリア」を図鑑か何かで見た時、僕自身がかつて水泳選手だったせいか、オフィーリアは泳げないのだろうかと思った記憶がある。同じ発想の人がいるんだと思うと可笑しくなった。
 ところが、夏目漱石の「草枕」の中に次のような一節がある。

--長良の乙女が振袖を着て、青馬に乗って、峠を越すと、いきなり、ささだ男と、ささべ男が飛び出して両方から引っ張る。女が急にオフェリヤになって、柳の枝へ上って、河の中を流れながら、うつくしい声で歌をうたう。救ってやろうと思って、長い竿を持って、向島を追懸けて行く。女は苦しい様子もなく、笑いながら、うたいながら、行末も知らず流れを下る。余は竿をかついで、おおいおおいと呼ぶ。--

 夢の中の話ということにはなっているが、漱石は今から120年も前に既に同じような発想をしていることにあらためて驚く。


ミレーの「オフィーリア」


山本丘人「草枕絵巻」より「水の上のオフェリア(美しき屍)」