どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

ハンカチの上の花畑

2015年09月23日 | 安房直子

    ハンカチの上の花畑/安房直子コレクション4 まよいこんだ異界の話/安房 直子/偕成社/2004年 1973年初出


 え!ハンカチに花畑が?
 ハンカチの上に蕾がひらきはじめると白、黄色、紫の菊の花が。
 花を壺の中にあけると、やがて菊酒が。

 こんな秘密のお酒を郵便配達の良夫さんに飲ましてくれたのは、誰も住んでいないような酒蔵の紺のかすりの着物を着たおばあさん。
 20年以上音信不通だった息子からの手紙をとどけてくれた郵便屋さんへのお礼でした。

 「あんた、びっくりしちゃいけないよ」とささやいて、レースのふちかざりのついたハンカチをとりだし
 「出ておいで 出ておいで 菊酒つくりの 小人さん」と歌をうたうと、壺の口からなわばしごが、するするとおりてきます。そしてゆっくり小人がでてきます。前掛、黒い長ぐつ、木綿の手袋、わらのほつれた麦わら帽子の夫婦と三人のこども。

 壺がからっぽになったとき呼ぶと、小人は一日に一回新しいお酒をつくってくれるというのです。

 おばあさんは息子の手紙をみて、遠い所に住む息子のところに行くから、壺を郵便屋さんにあずかってほしいと頼み、
 「小人がお酒をつくるところは、だれにもみせちゃいけない。菊酒で金もうけをしちゃいけない。約束をやぶるとたいへんなことがおきる」と言い残します。

 幸運のお酒はたしかに幸運をもたらしてくれます。遠いいなかの村からでてきて一人だった良夫さんが結婚することになります。

 ここからはらはらどきどきの展開が。

 はじめは嫁さんにも壺のことは秘密にしていますが、お酒を飲めなくなった良夫さんが奥さんをなんとかんとか理由をつけて、外出させ、その間に菊酒をつくっていましたが、やがて小人がお酒をつくるところを見られてしまいます。

 みられるとたいへんなことがおきるというおばあさんの言葉に何がおきるか心配?になるのですが、奥さんのえみ子さんに目にみえないものが入り込みます。

 えみ子さんも菊酒をつくり、知り合いの人びとにわけてあげると誰からもよろこばれ、みんなはお酒を届けてくれるのを待つようになります。菊酒をもらった人は時計や、手編みのセーターをなどお礼の品物をくれ、郵便屋さんのすまいは、品物でいっぱいになります。

 やがてうわさになったお酒のことを聞きつけた料理店の主人が、高いお金で買い取るとというのです。
 はじめは一日一瓶、次に一日二瓶。

 菊酒で金もうけをしちゃいけないというおばあさんの言葉がどこにいったのでしょうか。

 えみ子さんは、小人たちにビーズ、フェルトの帽子、奥さんの小人には長いスカート、だんなさんいはしまのズボンとチョッキ、子どもたちにはおそろいの青い上着をプレゼントします。

 しかし服装が立派になると小人の仕事はずっと手間取るようになります。せっかくの上着やズボンがよごれるのじゃないか気になり、帽子もいままでのものより小さくなって菊の花を壺に入れるのにとても時間がかかるようになります。
 良夫さんも、豆粒ぐらいのバイオリンをつくり、小人にプレゼントするのですが・・・・。

 大変なこととはなんだったのでしょうか。
 大変なことが頭の片隅にあって次にどうなるか、読み始めたらやめられません。

 おわりのほうで、郊外の赤い屋根を購入して、引っ越しをすると、隣の家には、菊酒をつくっていた小人がすんでいて、小人の国に迷い込んでしまうのですが・・・・。

 えみ子さんが、お金につられて小人たちを働かせ続けるあたりに、人間の欲望を感じさせるのですが、それが、ちいさくても庭付きの家がほしいというので、うーんとなります。

 めずらしく時代も感じさせてくれます。大きなつくり酒屋だったきく屋が戦争でほとんど酒蔵がまるやけになり、残ったのは一つの酒蔵。
 それが二十何年かむかしとありますから、昭和四十年代後半。高度成長がはじまるころでしょうか。

 菊酒を一生懸命つくっていた小人たちですが、プレゼントされた洋服をきて、バイオリンをひき、歌ったり踊ったりする陽気な暮らしで菊酒をつくることはなくなります。

 酒蔵のおばあさんが良夫さんをみても何も思い出しませんから、一つの時代がおわったかのようです。