でぶのおばあさん/オクスフォード 世界の民話と伝説3 アメリカ編/渡辺 茂雄・訳/講談社/1978年改訂
インデイアンの昔話で、これまであまり見られないパターンです。しかしタイトルで損をしているようです。
キリキという男の子と、お父さん、お母さん、お姉さん、赤ちゃん、おばあさんが地面の下に住んでいました。
石ばかりの地面からは何もそだたなく、食料といえば、大きな湖からとれる魚と海草だけ。
おばあさんは食べるだけが生きがい。食べてばかりいるので、どんどんふとってまんまるくなってしまいます。
キリキは湖のじいさんカメと大の仲良しで、いつも一緒に遊んでいましたが、ある日から姿をみせなくなります。
しかしひょっこり姿をみせたじいさんカメは小さなかたいものをもってきます。
カメから岩の下にまくようにいわれて、キリキはおじいさんカメのいうとおりに、種をまき、朝夕水をかけます。
四日になるとみどりいろのものがでてきて、それがどんどん大きくなっていきます。それは野生のつるで、あっというまに先がみえないほどになります。
カメから言われて、つるを登り始めたキリキは、青空と白い雲とみどりの草、美しい花をみます。
地面の下にすんでいたキリキが、地上の様子を話すと、それを聞いたみんなは引っ越しをすることにします。
ところがふとったおばあさんは、ふとりすぎて、つるをのぼることができません。
ひとり残されたおばあさんは、たき火もきえて、つめたい生ものばかり食べて、おなかをこわし、どんどんやせていってしまいます。
そこで、もう一度つるをのぼると、今度はつるの先までのぼり、みんなと会うことができます。
子どもの頃、地下に空間があって、地上とつながっているのではないかと考えていた記憶がある。
そんな記憶を思い出させるように、キリキにつるの種をもってきてくれたおじいさんカメは、つるを登らず、地下とつながっている川を何日もかけて泳いで地上にあらわれます。
この家族、地下に一人残っているおばあさんのことは心配することはありません。
食べるばかりだったおばあさんが、地上では働き始めて二度とふとることはなかったというオチもあります。