ハイリブの石 モンゴル民話集/松田忠徳・訳/富士書院/1988年初版
10月でも夜になるとマイナス30度までさがることもあるという厳しい風土のなか、凍てつく冬の夜長をゲルのなかで、ウリゲルチやトーリツとよばれる民話や叙事詩の語り手に耳を傾ける風景がうかんできそうな話。
聞き手の側も、語り手と一体化し、区切りのたびに「オーハイ(なるほど)」とか「ザー(それで)」と会いづつをうつさまがつたわってきます。
あるときトラの子がウシの子にであい、一緒にくらすことに。
トラの子は小さな鈴をひろい、だれかがウシの子をだまそうとしたら、鈴をならすようにいいます。
トラが鈴の音をききつけて、ウシの子のところにいってみると、アオバエがとまったのでとウシの子がいいます。
また鈴の音がきこえたので、トラの子がいってみると、ウシの子はあつかったので、頭をふっただけといいます。
なにやらイソップの話を思い浮かべる出だし。
また鈴の音がきこえますが、トラの子が相当の時間をおいてからウシの子のところにいってみる、ウシの子は骨になっていました。
嘆き悲しんだトラの子は、それからなにもたべずに、ともだちのそばで死ぬことに。
「ザー(それで)」と合づちがでそうなところ。
トラの子とウシの子が死んだ墓の上には,二本のよくしげった木がはえます。
やがて、太陽がのぼりはじめると、木の葉の茂みの中から二人の男の子がとびおり、草の上であそびはじめます。
羊をおってきた遊牧民が、木の葉から地面にとびおりる男の子をみかけ、ふしぎなこともあるものだと話あいます。
この話が、妻から子、となりの家、さらにとなりの家とうわさが広がり、二人の子は王さまのところにつれていかれることになります。
「ザー(それで)」
アルタン・クとムングン・クと名前がつけられた二人は、王さまのそばで、家畜の世話をつづけます。
10年たって、りっぱなわかものに成長したふたりでしたがアルタン・クは、戦にでかけ、ムングン・クは、東方のハルガイルド王国の10番目の娘をさらってくるようにめいじられます。
ムングン・クが旅しているとき、羊の世話をしている老人にであい、杖をてにいれます。
馬をなくして難儀している老人に、お金をあげると、この老人からは羊の骨を。
住むところもない老人にお金をあげると、消し炭をてにいれます。
やがてたどりついたハルガイルドで、美しい娘をみつけますが、オユンというむすめは、王さまより、ムングン・クと暮らしたいと言います。
「ザー(それで)」
やがてハルガイルドの兵士から逃れた二人でしたが、こんどはムングン・クの王さまの役人におわれることになります。そしてムングン・クは、王さまの兵士に殺されてしまいます。
「ザー(それで)」がまだまだ続く話です。短い話では合づつは難しい。
モンゴルにかぎらず、外国にはながい話が多いように思いますが、日本では、それほど長い話がないようです。こうした違いはどこからきているのでしょうか。