世界のメルヒエン図書館5 火の馬/小澤俊夫:編訳/ぎょうせい/1981年
どこかであったことのあるいくつものシチュエーションがでてきます。
年とった父親が、十八歳になったアリ・ジャンに百枚の金貨をもたせて、商売の仕方をまなんでほしいとおくりだします。
行商のキャラバンとでかけたアリ・ジャンが一年間かけて学んだのはチェス。
父親がいろいろな注意を与えて、一年後にもういちど百枚の金貨をもたせておくりだしますが、アリ・ジャンが一年かけて学んだのは音楽。
さらに一年後にアリ・ジャンをおくりだしますが、今度は最後の百枚の金貨。今度アリ・ジャンが学んだのが文字でした。
さすがに父親のところへ帰りにくかったのか、やとってもらった商人のキャラバンにくわわり、旅に出ます。
なんにちも水をみつけることができなかったキャラバンでしたが、ほんのすこしわきでているいずみをみつけ、アリ・ジャンが水をくみにいき、皮袋に水をいっぱいいれます。
ところがいずみのわきに小さな扉をみつけたアリ・ジャンがそのなかにはいってみると、そこには鬼神デウが悲しそうに首をうなだれてすわっていました。手にはギジャクという楽器をもっていました。アリ・ジャンが楽器をひいてやさしい音色がきこえるとデウは、はっとわれにかえり、キャラバンに帰ろうとしたアリ・ジャンをひきとめ、「おまえがいちばんしてもらいたいことをかなえてあげよう」といいます。
デウはひとりぼっちの息子を亡くし、悲しくて死のうと思っていたところでした。それがアリ・ジャンの楽器の音色を聞いて、生きる希望がでたのでした。
いずみのなかから地上にでることだけがのぞみと謙虚なアリ・ジャンでしたが、デウは金貨のいっぱいはいったさいふもくれました。
キャラバンにおいついたアリ・ジャンがデウにもらったさいふを商人にみせると、主人は手紙を書いて、馬で家に帰って、主人の娘と結婚式をあげる準備をするよういいつけます。
ここでは、たいてい第三者が手紙を読むのがほとんどですが、アリ・ジャンは文字も学んでいます。
手紙には、うまくだましてアリ・ジャンの首はねるようと書かれていました。
手紙をかきかえたアリ・ジャンは主人のむすめと二日間にわたって結婚式を挙げます。
夜遅く帰ってきた主人が家の門をたたいてなかにはいろうとすると門はあきません。塀をよじのぼって庭に入ると、家で働いている男たちにつかまり、ぼうで袋叩きされてしまます。
というのはアリ・ジャンが商売にでかけるまえに、夜になったら家の門をけっしてあけてはいけない、だれかが塀をのりこえてはいってこようとしたら、すぐにつかまえ、むちでこらしめるよう命じておいたためでした。
妻が手紙の通りむすめと結婚式をあげさせたと聞いた商人の主人は「自分がよくばりだったために罰せられたのだ」と、さとります。
他の話では、主人が結婚するための難題をだすケースがほとんどですが、ここではいさぎよく反省します。
アリ・ジャンがはじめに学んだチェスがでてこないとおもっているとちゃんと出番があります。
チェス自慢の王さまに勝ったら王位をゆずるが、負けたものは命がなくなるという勝負でした。
もちろん、ここでもアリ・ジャンが勝つのですが、王座にはつきたくない、ただ故郷にかえりたいと謙虚です。
「どんなことでもしてあげよう」「王座をゆずる」といわれても辞退する潔さ、ほかの話ではあまりみられません。