スラムにひびくバイオリン/スーザン・フッド・作 サリー・ワーン・コンポート・絵 中家多恵子・訳/汐文社/2017年
パラグアイのカテウラのゴミ処理場で、悪臭の中、資源回収する人々。少年少女たちは路地でたむろし、生活の不平不満をこぼし、喧嘩もたえません。
ある日、「バイオリン、ギター、チェロをおしえます」というポスターをみたアーダのおばあさんがかってに申し込みます。
アーダのおばあさんは歌うのがすきで、父親も歌を歌い楽器の音を聞き分けることができました。アーダも楽器の音に聞き耳をあてるようになっていたのです。
ポスターをだしたのは、ファビオ・チャペス。
チャベスは環境技術者として、廃棄物の危険な山で働くガンチェロ(ゴミを分別する係)に安全に作業する技術を教えにきていました。
音楽家でもあったチャベスは子どもたちがトラブルに巻き込まれないように音楽の指導をすることを思いつきます。
最初にレッスンに集まった子供は10人。
ところが用意したのは3本のギターと2丁のバイオリン。これでは練習しようにも楽器が足りません。
家より高価なバイオリンは到底無理です。
チャペスはアルゼンチンで自分たちでつくった楽器を演奏しているレ・リュチエというバンドのことを思い出し、ゴミの山のなか使えそうなものを選び出し、楽器を手作りすることを思いつき、ガンチェロで大工でもあるニコラス・ゴメスに助けをもとめます。
ゴメスはゴミの山から穴のあいたドラム缶を見つけ、古いレントゲン写真で穴を防ぐことを考え、オイル用のドラム缶はチェロに、水道管はフルートに、木枠の箱の板がギターのさおにかえます。そしてバイオリンは古いペンキ缶、アルミニウムの天板、フォーク、木枠の箱の板でつくったのです。
部屋はありませんから、練習は猛暑、土砂降りの雨でも外で練習です。
途中、レッスンをやめていく子も出ましたがアーダはやめずに、家でも練習です。
時間がたつにつれて、耳ざわり音が、正しい音へ。そしてカテウラには、これまでになかった空気が流れ、アーダのバイオリンの音色、ベービのチェロの調べに聞き入るようになります。
やがて学校で、カテウラで、首都のアスンシオンでのコンサートにも出演し、このふうがわりなオーケストラのうわさが国中に広まっていきます。それだけでなく外国からも声がかかるようなります。
夢と希望にあふれたサクセスストーリーです。
副題に「ゴミを楽器に変えたリサイクル・オーケストラ」とあります。オーケストラが街の空気をかえるさきには希望があります。そして、指導者の熱意とともに、なによりも、自分の可能性を信じた子どもたちの思いが伝わってきます。
ハリウッドと鎌倉の大仏もえがかれていますので、日本にもきたのかも!
子どもたちの出生証明書もなく、法律的は存在していなかったというあとがきも、この国の子どものおかれた状況をしめしています。