昔話では、極端なことがおきます。
・先に口をきくのは(シルクロードの民話4 ペルシャ/小澤俊夫・編 宮崎泰行・訳/ぎょうせい/1990年初版)
ある夫婦がどちらが羊に水をあげるか喧嘩になって、先に口をきいたほうが羊に水をあげることにします。
妻のほうは隣にでかけ、残った夫は通りかかる人から挨拶されても、口をきくと妻にきかれてしまうと思い、うなずくだけ。床屋がやってきて「頭を刈りましょうか」ときくが、夫は何もいいません。
床屋が勝手に髪を刈りはじめますが、やはり夫は何もいいません。
床屋が通りで喧嘩をはじめた二人の男に気をとられて、片方の髭を切り落としてしまい、やむをえずもう一方の髭もそりおとし、顔に髭の模様を描きます。
床屋はお代をいただこうと声をかけるが夫が何もいわないので、部屋の中に入って高そうな金と銀の装飾品をもっていってしまいます。
妻が帰ってきて、部屋のなかで、頭をつるつるに刈られ、髭をそられて、炭で顔をぬりたくられた自分の夫をみて、思わず口をきいてしまいます。これを聞いた男は飛び上がって大喜びして言うことには、「そら、しゃべった。さあ、外に出て羊に水をやってもらおうか」
落語にありそうな話。ここまでいかなくても、ときとして意地の張り合いになることが身近にもありそう。
・だんまりくらべ(子どもに語るトルコの昔話/児島満子 編・訳 山本真基子編集協力/こぐま社/2000年初版)
ホジャ話の「だんまりくらべ」。
ホジャが家にいたとき、泥棒に入られますが、だんまりを決め込んだホジャが家のものばかりか頭のターバンまでもっていかれてしまいます。そのうえ、おかみさんが作ってくれたスープを頭からかぶってしまいますが、それでも一言もしゃべらない。それを見たおかみさんが大きな声でさけぶと、「そら、しゃべった。うま屋へいって、ロバにえさをやってこい」
・先に怒った者が負け(子どもに語るイタリアの昔話/剣持弘子 編・再話 平田美恵子・再話協力/こぐま社/2003年初版)
上の二つは、どちらも夫婦喧嘩で意地の張り合いをするが、「先に怒った者が負け」では少し違って、大きな農場に働きに行った息子が、農場主とお金をかけて、どちらか怒ったほうがお金を巻き上げられるというもの。
昔話のパターンで上の二人の息子は農場主にうまくやられてお金を巻き上げられるが、末息子がそれを取り戻すというもの。末息子が行ったことといえば極端なこと。
一つは大事なブドウの木を全部切り倒す、二つ目には小麦の種をまくようにいわれて、畑に穴を掘って、小麦の種をうめてしまったこと、三つ目には羊の大半を商人に勝手にうりはらったこと、さらにブタの大半も勝手に売り払ったことなど。
末息子の徹底したおとぼけが笑いをさそう。
・だんまりのゴハおじさん(ゴハおじさんの愉快なお話 エジプトの民話/千葉茂樹・訳/徳間書店/2010年初版)
ロバのエサをどちらがあげるかで、奥さんとだんまり比べをする話。この話にも泥棒がでてくる。
・四人のなまけ者(中国)愛蔵版おはなしのろうそく8/東京子ども図書館編/2007年)
四人のなまけ者が、森に散歩に行って、景色のいいところで一休み。
パンが四つ。ヨーグルトは、かめの中にほんのちょっぴり。
ヨーグルトを水でわって、ふやそうとしますが、誰もいくといいません。
なまけ者は、だんまり比べをして、真っ先にしゃべったやつが水をくみにいくことに。
犬と狩人が声をかけますが、四人はなにもいいません。狩人は、パンを見つけ食べますが、四人はなにもいいません。わけがあるんだと、狩人はヨーグルトを、めいめいの口に少しづつそそぎこんでやります。
次に一匹の犬がやってきて 黒いひげをたらしたなまけ者の上着についたヨーグルトをなめました。犬はそれからイヌは、だんだんと上になめて行って、黒いひげをなめはじめます。
その男は我慢できなくなって「こら、いっちまえ!」と叫んでしまいます。するとほかのなまけ者が、「お前が水くみにいくんだ」とさけびますが、ヨーグルトは影も形もなくなっていましたからあとの祭りでした。