
字のないはがき/向田邦子・原作 角田光代・文 西 加奈子・絵/小学館/2019年
「字のないはがき」は、中学校の教科書にもとりあげられているようですが、この絵本は、戦争中の、向田さん一家のちいさな妹さんのエピソードが中心です。
戦争末期、ちいさな妹が疎開するとき、おこるとこわいお父さんは、まだ字が書けないちいさな妹に、「げんきな日は、はがきに まるをかいて、まいにち いちまいづつ ポストにいれなさい」と、たくさんのはがきを渡しました。
小さな妹は、えんそくにでもいくように、うれしそうに とおくへと 出発しました。
一週間後のはじめてのはがきのには、はみだしそうな大きな大きな赤鉛筆のまる。
ところが次の日から、黒鉛筆でかかれたまるは きゅうに ちいさくなってしまいました。そしてあるとき、ついに、ばつになってしまいました。
おかあさんが、小さな妹を むかえにいくと、いもうとは、ひどいかぜをひいて、狭い布団部屋に ねかされていたようです。
妹がかえってくる日、わたしとおとうとは、庭になったかぼちゃを全部もぎ取り、部屋にずらりとならべました。
おとうさんは、ますます ちいさくなった いもうとをだきしめて おおんおおんと声をあげて なきました。いつも おこっているばかりの こわいお父さんの 大きな泣き声が しずかな夜に ひびいていました。
疎開先で小さな妹にどのようなことがおきていたのかはでてきません。はがきにかかれたまるのおおきさだけで想像するしかありません。
きびしくて、おこるとこわいおとうさんが、小さな妹をだきしめて泣き声をあげるところに、愛情を素直に出せない、ちょっと昔のお父さんの姿が重なります。
疎開を体験した人も、少なくなります。日本では、戦争中の記録が民間まかせ。空襲や原爆のことなど国家レベルで記録を残せないのが残念です。
西加奈子さんの絵には、人の足とその影は でてきますが、顔がえがかれていません。読む人の想像にまかせたのでしょうか?。