キルトでつづるものがたり/バーバラ・ハーカート・文 ヴァネッサ・ブラントリー=ニュートン・絵 杉田七重・訳/さ・え・ら書房/2016年
アメリカの絵本で、ときどき伝記絵本にであうことがあります。有名な方だと不思議はありませんが、あまり知られていない人というのが特徴です。
国立ボストン博物館の「聖書」のキルト、ボストン美術館の「絵画」のキルトは、値段のつけられない宝物になっているといいます。
このキルトを製作したハリエット・ハワーズは1830年ジョ-ジア州の大農園で奴隷の子として生まれました。奴隷の子は奴隷。読み書きを習うことは禁じられていました。1861年南北戦争がはじまり、ジョージア州の奴隷が自由になったのは1864年。
奴隷の困難な状況にもふれられていますが、そのなかでも黒人女性たちの「キルトづくりの会」は大切なひととき。奴隷たちはキルトを利用して物語をつづっていきます。
奴隷制度はなくなりましたが、それで生活が豊かになったわけではありません。五人の子供を抱え、キルトに物語をつづっていったハリエット。
ジョージア州の「コットン・フェア」という綿のお祭りに出展されたハリエットのキルトは、美術教師のジェニー・スミスに評価されますが売ることはありませんでした。
しかし厳しい時代がやってきて、ハリエットはキルトをジェニーに売ります。そのキルトを博覧会でみた人から大変な注目をあびます。
構図がキルトそのもの。黒人女性の困難な中でのしたたかな生き方、子どもたちのチャーミングな笑顔は、困難だったろう暗さをかんじさせません。
表紙と裏表紙の見返しに二枚のキルトがのせられ、ジェニーが聞き取った意味ものせられています。
二つの作品だけではなく、子どもが眠っている布団のキルト、ハリエットのスカートのキルトも印象に残りました。