長崎のむかし話/長崎県小学校教育研究会国語部会編/日本標準/1978年
外国には、はじめに生まれる子の運命が予言され、そのとおりに展開していく話も多い。
運命を予言するのは、預言者や裕福な商人、王さま、魔法使いなどなどだが、手紙の書き 換え、結婚、いくつもの難題の解決など、つぎからつぎへと展開していく。
意外にも日本には、このタイプはあまり見聞きしません。
そのなかで「生まれ子の運」は、短め。
予言するのはクスノキです。
猟師が山へはいり、クスノキ,松の木、杉の木が話しているのを耳にします。
今夜生まれる子が、なんて泣くのか知りたく、クスノキが生まれた子の家に出かけます。
クスノキは「よかむすこじゃったばよ。だけど七つの年の節句の船遊びのとき、昼頃かっぱから とられて死ぬってないたばよ」と話します。猟師が家に帰ってみると、まるまるふとった赤子がうまれていました。猟師は、木たちが語ったことを思い出しますが、そのことはだれにもいわずにいました。
七年たち、節句のお祝いに息子のためによか晴れ着と、よか船を用意すると、猟師の家の前に見知らぬこどもたちが、やってきて連れだって船遊びにでかけます。
猟師は、胸の中で泣く泣く息子を見送りますが、どうしても気になってあとをつけていきます。よか風が吹き、船は、川上、川下にいったりきたり。風が吹きやまないので船遊びに夢中になった子どもたち。そのうち風が吹きやみ、子どもたちは、時間が過ぎたことをくやしがります。そして「しょうなか。ぬしは長生きしなさい」と、晴れ着をきた子どもたちが、川の中へとびこみます。たくさんいた子どもはカッパでした。
よか風が吹いて、カッパたちが、遊びすぎたため猟師の息子は命をとりとめ、逆に長生きすることができます。
精霊の存在は、ひろく信じられていましたから、木が話してもおかしくありません。五節句のひとつ、5月5日は男の子の健やかな成長を祈願しますから、この日に死ぬというのはふさわしくありません。