どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

どんぐりと山猫

2023年12月05日 | 宮沢賢治

 
    どんぐりと山猫/宮澤賢治 本間ちひろ・絵/にっけん教育出版社/2004年
 

 土曜日の夕方、一郎のところに、「めんどなさいばんをしますから、おいでんさい」とおかしなハガキが届きます。差出人は山猫でした。

 一郎が山にいくと、どんぐりたちが口々に

 「あたまのとんがっているのがいちばんえらいんです」
 「まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです」
 「おおきなのがいちばんえらいんだよ」
 「せいの高いことなんだよ」
 「押しっこのえらいひとだよ」
 まるではちのすをつっついたようでした。
 今日で三日目という裁判。

 一郎が裁定することになりますが
 「そんなら、こういいわたしたほうがいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」

 どんぐりは、しいんとしてかたまってしまいます。
 山猫は、ひどい裁判を一分半でかたずけたと、おおよろこび。

 どんぐりと一口に言っても、コナラ、 ナラガシワ、 ミズナラ、 カシワ、クヌギ、 アベマキ、ウバメガシ、ウラジロガシ、オキナワウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシ、ハナガガシ、イチイガシなどいろいろ。

 ただ特別に違いがありませんから、まさに、どんぐりの背比べです。


 それにしても、いまではあまりみられない、次のような賢治さんの表現には情景が浮かんでくるようです。
 「まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのように、うるうるもりあがって、まっさ青なそらのしたにならんでいました。」

    どんぐりと山猫/宮澤賢治 田島征三・絵/三起商工/2006年

 おかしな葉書で、森?へでかけ、どんぐりたちの争いをおさめるというわかりやすいお話ですが、そこまでいくとちゅうも楽しい。

 一郎が栗の木に、山猫がとおらなかったきくと、「馬車で東」、笛ふきの滝にたずねると、「馬車で西」、ブナの木の下の、白いきのこにきくと、「馬車で南」、リスに聞くと、「みなみ」。東へ行って西にいったら元の場所? 結局、南にいったのでしょう。

 田島さんが描く キャラクターも ひとくせもふたくせもありそうな人物。山猫の馬車別当という男は、片目で上着のようなへんてこなものを着て、足がひどくまがって山羊のようなのですが、歯もところどころ抜けています。山猫の目も、いちどみたら忘れません。そして、あつまったどんぐりの数の多さ、その表情も圧倒的。

 やまねこが、どんぐりたちが、蜂の巣をつついたように、がやがやいっているところで、「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれしずまれ。」と、一喝する画面いっぱいの表情も迫力があります。賢治さんのイメージした山猫は、どうだったでしょうか。

 争いをおさめた一郎が、お礼に黄金のどんぐりをもらいましたが、馬車が止まったときは、茶色のどんぐりにかわりました。別れ際に、葉書が来たら、またくると約束した一郎ですが、それから、山猫からの葉書はもうきませんでしたから、争いはなくなった?。余韻が残ります。