どんぐりと山猫/宮澤賢治 本間ちひろ・絵/にっけん教育出版社/2004年
土曜日の夕方、一郎のところに、「めんどなさいばんをしますから、おいでんさい」とおかしなハガキが届きます。差出人は山猫でした。
一郎が山にいくと、どんぐりたちが口々に
「あたまのとんがっているのがいちばんえらいんです」
「まるいのがえらいのです。いちばんまるいのはわたしです」
「おおきなのがいちばんえらいんだよ」
「せいの高いことなんだよ」
「押しっこのえらいひとだよ」
まるではちのすをつっついたようでした。
今日で三日目という裁判。
一郎が裁定することになりますが
「そんなら、こういいわたしたほうがいいでしょう。このなかでいちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらいとね。ぼくお説教できいたんです。」
どんぐりは、しいんとしてかたまってしまいます。
山猫は、ひどい裁判を一分半でかたずけたと、おおよろこび。
どんぐりと一口に言っても、コナラ、 ナラガシワ、 ミズナラ、 カシワ、クヌギ、 アベマキ、ウバメガシ、ウラジロガシ、オキナワウラジロガシ、アカガシ、ツクバネガシ、ハナガガシ、イチイガシなどいろいろ。
ただ特別に違いがありませんから、まさに、どんぐりの背比べです。
それにしても、いまではあまりみられない、次のような賢治さんの表現には情景が浮かんでくるようです。
「まわりの山は、みんなたったいまできたばかりのように、うるうるもりあがって、まっさ青なそらのしたにならんでいました。」
どんぐりと山猫/宮澤賢治 田島征三・絵/三起商工/2006年
おかしな葉書で、森?へでかけ、どんぐりたちの争いをおさめるというわかりやすいお話ですが、そこまでいくとちゅうも楽しい。
一郎が栗の木に、山猫がとおらなかったきくと、「馬車で東」、笛ふきの滝にたずねると、「馬車で西」、ブナの木の下の、白いきのこにきくと、「馬車で南」、リスに聞くと、「みなみ」。東へ行って西にいったら元の場所? 結局、南にいったのでしょう。
田島さんが描く キャラクターも ひとくせもふたくせもありそうな人物。山猫の馬車別当という男は、片目で上着のようなへんてこなものを着て、足がひどくまがって山羊のようなのですが、歯もところどころ抜けています。山猫の目も、いちどみたら忘れません。そして、あつまったどんぐりの数の多さ、その表情も圧倒的。
やまねこが、どんぐりたちが、蜂の巣をつついたように、がやがやいっているところで、「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれしずまれ。」と、一喝する画面いっぱいの表情も迫力があります。賢治さんのイメージした山猫は、どうだったでしょうか。
争いをおさめた一郎が、お礼に黄金のどんぐりをもらいましたが、馬車が止まったときは、茶色のどんぐりにかわりました。別れ際に、葉書が来たら、またくると約束した一郎ですが、それから、山猫からの葉書はもうきませんでしたから、争いはなくなった?。余韻が残ります。