どんぴんからりん

昔話、絵本、創作は主に短編の内容を紹介しています。やればやるほど森に迷い込む感じです。(2012.10から)

100年たったら

2024年01月01日 | 絵本(日本)

    100年たったら/文・石井睦美 絵・あべ弘士/アリス館/2018年

 

 草原にたった一匹になったライオン。百獣の王として君臨していたのは昔。ライオンは草や虫を食べましたが、どんなに食べてもおなかはいっぱいになりませんでした。ある日、一羽のヨナキウグイスが草原に おりたちました。ライオンは ゆっくりしずかに鳥にちかづいていきました。

 ヨナキウグイスは、いきなり「にげやしないわ。もっとどうどうと いらっしゃいよ」といいます。ライオンが なぜにげないかたずねると、「わたしは もうとべない。あんたおなかがすいているんでしょ? わたしを たべたらいいわ」

 ライオンは少しの間、鳥を見つめました。ちいさなからだ、ぼろぼろのつばさ。「あいにくおれは、にくはくわないんだ。おれのこうぶつは、草と虫さ」と、ライオン。

 その日から、ライオンと鳥は、いっしょに虫を食べ、一緒にひなたぼっこをし、鳥は、それはいい声で 歌を歌い、寄り添いながら暮らします。こうして一日一日がすぎていき、月のきれいな夜、鳥はライオンのせなかからおりると、「わたし、もういくよ」といいだしました。一緒にいくとライオンがいいますが、「だめ」と、鳥はきっぱりいいます。ライオンは、鳥がどこにいこうとしているかが わかり、もっと一緒にいたいと泣きます。「また あえるよ」という鳥は、「100ねんたったら」と言い残します。

 それから10年もたつと、草原には もうライオンもいなくなりました。100年たつとライオンは、岩場にはりつく貝になり、鳥は海のちいさな波になりました。あるとき、ひとりの男がライオンだった貝をとっていきましたが、波はあいあわらず 岩場にうちよせました。

 また100年がたって、ライオンは、三人の孫のいるおばあさんになっていました。

 ライオンは、魚になり、白いチョークにもなりました。北の国のリスの子なったこともありました。鳥は、漁師になり、黒板になりました。リスの子のうえに、はじめてふった 雪のひとひらに なったこともありました。

 そうして なんどめかの100年がたった時、ライオンは 男の子としてうまれ、鳥は,女の子としてうまれました。小学校の校庭で、男の子は、遠くから転校してきた女の子にであいました。なんだか、まえにあったことがあるみたいだ。--男の子は そう思いました。

 

 広い草原で、たったひとりぼっちになったライオンは、小鳥を食べることより孤独を解消することを選びました。そして、一緒に暮らした瞬間の時間を、何百年にもわたって生まれ変わることで、出会いを共有することに・・。

 生まれ変わりを信じたなら、どんな出会いがあるのか。素敵な出会いは、人生の転機にもなります。

 余韻の残るラストです。