子どもに贈る昔ばなし18/小澤俊夫・監修/小澤昔ばなし研究所/2022年
”ぶんのう”は、骨皮筋右衛門で、医者のような連歌作者風の妖術使い。ちょっと不思議な話を代表させたのか?
・足を焚く男
日も暮れて寒さもまして、一軒家で暖を取ろうとして断られた男。
自分で勝手にするからと、そこにあった鉈で自分の脛を削りはじめ、その木くずを、囲炉裏にくべるとパチパチと燃えた。そのうち火が燃え尽きると、”ぶんのう”は、「ああ、十分ぬぐまった。へばな」と言って出て行ってしまった。
その家のじさま、しばらくぼーっとしていたけれど、ふと夢からさめたように、囲炉裏を見ると、囲炉裏の炉ぶちが削り取られ、火の気もなくなって炉石だけが残っていだと。
(足を焚くと、びっくりさせるが、オチは・・)
・西瓜畑になった街道
のどが渇いて、道端の西瓜売りに、西瓜をわけてくれるようにたのんだぶんのう。ただといわれて、ことわった西瓜売り。
ぶんのうは、自分で作って食うしかないと、杖を道端にたて、呪文を唱えた。すると杖の根元から、芽が出て、蔓伸びて、葉っぱが出て、花っこ咲くとあっというまに大きな西瓜が、ぶんのうの足元にゴロッところがった。それだけでなく道いっぱいに西瓜が。通りがかった村人も、一人食うと、おらもおらもとかぶりついた。ああうめかったと、みんなはどこかへ行ってしまった。
日が暮れて、西瓜売りが店に戻ってびっくりした。いっぱい積んであった西瓜が、かげもかたちもなくなっていたど。
・はたはたを釣った話
むかし、あまりはだはだが取れない年があった。大きな大鍋で、ご馳走が出てくると思ったぶんのう。ところが鍋の中は、汁ばかり。
ぶんのうは、いま、はだはだ釣っているから、みんなを呼んで来いと、声をかけた。ぶんのうが窓からさげた釣り竿を引き上げると、糸のさきにピンピン跳ねるはだはだ。釣っては鍋に入れ、釣っては鍋へ。近所の人が、どぶろく一升づつさげて集まってきた。その晩、はだはだ貝焼きでたいした酒盛りになった。
つぎの朝、近くのはだはだ売りの、はだはだが百匹はいった一籠が、なくなって大騒ぎした。
(はたはたは、歌にもある秋田名物)
・蛇ノ崎橋を呑んだ話
たいした人出をみたぶんのうが、蛇ノ崎橋を呑んで見せようと大声をはりあげ、橋を呑みはじめたので、みんな呆気にとられた。しかし、ひとりのへそまがりの若者が、橋を呑み込むなどできるはずがないと、橋のそばの鐘つき堂の杉にのぼってみた。
上から見てみると、ぶんのうは、橋の上を這っているだけ。若者が大声でさけぶと、阿呆面を見ていた見物人も、ハッと正気に戻って笑った。
妖術がみやぶられたぶんのう、怒るが、見物人の声で、消されてしまった。
そのとき、急に大風が吹いてきて、若者の のぼっていた杉の木が、倒れ、若者が 杉ののてっぺんからから落ちてしまった。
ところがこの大風も、ぶんのうの妖術で、その日は、ほんとうのところ、風一つないええ天気だったんだぞ。