子どもに贈る昔ばなし18/小澤俊夫・監修/小澤昔ばなし研究所/2022年
いわばシンデレラストーリなのですが、朝日長者のきろ松という男の子が、夕日長者の娘の婿になるという話なので、枠は はみでています。
きろ松が長者の家をでることになったのは、長者の後妻が病気になり、後妻の病気を治すためには、きろ松の生き胆をのませないとなおらないといわれたこと。長者は妻と、きろ松のいずれれとるか思い悩みますが、妻の病気をなおすことを選びました。そして男衆が芝居見物といつわって、きろ松を駕篭に乗せ生き胆をとろうと山へ行きますが、かわいそうと思った男衆が、きろ松を逃がし、かわりに猿の肝をとって男衆はもどりました。
きろ松が山の中を歩いていくと、新しい墓がありました。きろ松が墓を通り過ぎようとすると、あたりは急に日が暮れたようになり、すすむことも、もどることもできなくなりました。きろ松がこの墓のそばで寝ていると、墓石がぐらぐら動き出しました。そして、白い着物を着た人が墓から出てきて、「きろ松か、きろ松か」という。この人は母親で、「わたしが死んだばかりに、おまえがこんな苦労をするんだね。この『紅』という扇を持っていきなさい。この扇で『衣服大小龍の駒』といって、天にむかってまねけば、みごとな馬が着物や大小の刀を背負って降りてくる。寒いときは、着るものを、腹がすけば食べるものをさずけてくれるだろう。これさえもっていればもう苦労することもなかろう」といって、いなくなりました。
やがて、きろ松は夕日長者のところで馬の世話をはじめます。名前をたずねられると、「だか」とでも呼んでくださいといい、それで、きろ松は「だかやだかや」とよばれるようになりました。何年かたって、そこで大きな遷宮が行われることになり、めったいにない遷宮というので、みな、われもわれもとお参りにでかけていきました。留守番することになったのは、だかと、この家の娘でした。
だかが、ちょっとお参りしようかという気になり、『衣服大小龍の駒』といって、紅の扇で天にむかってまねくと、みごとな馬がりっぱな着物や大小の刀を背負って降りてきました。だかは、その着物を着て、大小の刀を差し、龍の背中にまたがると、遷宮にでかけていきました。
遷宮からもどった人たちは、くちぐちにりっぱな人をみることができたと、うわさしました。一方、長者の娘は、とたんに具合がわるくなってしまいました。占い師が「下ばたらきの者が好きになって、そのための恋わずいにちがいない」といいます。長者は、下ばたらきの若い者をよんで座敷にあがらせ、娘が杯を差し出したものを婿にしようとしますが、娘は障子をぴしゃりとしめてしまいます。だかは、そこにいませんでした。だかをよんで、娘をもう一度呼ぶと、娘は、まっすぐだかのところへいって、杯を差し出します。長者が、おまえがもっている婿入りのごしらえでは、うちの婿にはなれんぞ」というと、だかは、紅の扇で、りっぱな婿入りのしたくをしました。
繰り返しが昔話の特徴ですが、ずいぶんとさっぱりした展開。干支の龍が出てきますが、『衣服大小龍の駒』は わかりやすい。