魔女のおくりもの かめのシェルオーバーのお話2/ルース・エインワース・作 河本祥子・訳/岩波少年文庫/1997年初版
五人の子どもの末っ子キャシーが、木の枝を集めているとき、おなじように木の枝を集めているおばあさんにあいます。おばあさんのかごがなかなかいっぱいになりそうにないので、キャシーはまるで妖精のように走り回り、おばあさんのかごをいっぱいにしてあげます。すると、おばあさんは、お礼に、はんてんもようのたまごをくれます。
たまごからうまれたのは、指ぐらいのおおきさの女の子でした。キャシーは、”てんてんちゃん”と名前をつけ、からだを洗ったり、髪をとかしたり、おままごとの道具を使ってごはんをあげたりしました。
てんてんちゃんは、だんだん背がのびて太ってきましたが。どんなに眠っても、どんなに食べても、お人形ぐらいのおおきさにしかなりませんでした。てんてんちゃんは、よくうそをつき、気に入らないことがあると、つねったり、かんだり、ひっかいたりしました。いちばん悪いのは、ほかの子どもたちを、からかったり、いじめたりすることでした。
キャシーのいちばんすきなお人形を、腹立ちまぎれにこわしてしまったとき、お母さんが罰として、てんてんちゃんを箱の中にとじこめましたが、キャシーは、ヤマネのようにからだをまるめて、寝てしまうだけでした。
何週間かすぎるうちに、てんてんちゃのおぎょうぎは、よくなるどころか、ますます悪くなりました。
おとなしくて、やさしいキャシ-も、はんてんもようのたまごに、出会わなければよかった、苦労してかえしたりしなければよかった、と思うようになりました。
ある日、森のほとりを歩いていたお父さんは、こびとたちが石を動かそうとしているのを見つけました。お父さんが石を動かしてあげると、こびとの女王があらわれ、「あなたは、わたしたちが何日もかあるような仕事を、かわりにやってくれましたね。あなたが家に帰るまでに、願いをひとつかなえてあげましょう」といいました。
お父さんは、「わたしのところにいるてんてんちゃんを、どうすればいい子にできるでしょうか。あの子は悪い子ですが、わたしたちはみんな、あの子がかわいいんです。あの子にも、私たちをすきになってほしいんです。」と尋ねると、女王さまはいいました。「自分以外のだれかほかの人、ほかのもののために、涙をながしたら、やさしい、いい子になるでしょう」
お母さんが、悲しいお話を子どもたちに読んであげたり、悲しい歌をうたったり、うつくしい音楽を聞かせても、てんてんちゃんは反応を示しません。
クリスマスが近づいてきて初雪がふったとき、てんてんちゃんが、自分と同じぐらいの大きさの物をかかえて、家にかけこんできました。「小鳥を見つけたよ。寒くて飛べないの。だんろであたためてやろう。」。そういうとてんてんちゃんは、じゅうたんにひざをついて小鳥を、そっと下におきました。
お父さんが小鳥をみて「小鳥は死んでいる。お父さんが土に埋めてあげよう。」というと、てんてんちゃんは「死んでいるの?でもそんな、冷たくなって死んでいるなんて、私、いやだ。あたためてあげよう。生きてほしいの。もういちど飛んでほしいの。」
「もう忘れなさい。この小鳥は、もうにどと、飛べないんだよ」とお父さんが言うと、てんてんちゃんは、「もう飛べないって、ほんとう?」と大声でいうと、涙があふれてきて、泣きじゃくりました。これいじょう泣けないというほど泣くと、てんてんちゃんはお母さんのひざにすわって、キスをしてもらい、やさしくなぐさめてもらいました。そのしゅんかんから、てんてんちゃんはかわりました。明るく、いきいきしてきて、いじわるをしたり、だましたり、ひとの不幸をよろこんだりしなくなりました。
創作ですが、不思議なおばさん、こびとがでてきて昔話風です。悪い子のてんてんちゃんを やさしく見守る家族のあたたかさを感じます。