チベットの昔話。
地主の家で羊飼いの仕事をしていた男の子。一年中来る日も来る日も羊を草原に連れていき草を食べさせていました。
食べものといえば、毎朝、地主からもらう 小さな袋に入っているツァンパ(はだか麦を煎って、粉にしたもの。お茶やバターを入れ捏ねて食べる、チベット人の主食)で、男の子はいつもひもじい思いをしていました。
ある日、ツァンパを食べようと 袋をあけたとき、目の前に ウサギが一羽いました。ウサギは、同じところをいったりきたり。男の子は、「ツアンパを食べたいのかい? だったら、お食べ。どうせ ぼくは いつだって おなかいっぱい 食べられないんだ。」と、ツァンパを ひとつかみ 草の上に おいてやりました。
これが、二日、三日続き、百日目のとき、ウサギがツァンパを食べ終えると、かわりに 白い髪、白い髭、白い服のおじいさんが あらわれました。悪魔に負けて、ウサギにかえられたという天の神は、ツァンパの おれいに どんな 宝がほしいか 聞きます。
男の子は、一日中、いっしょにいるのは羊だけで、話し相手がほしいと、動物の言葉がわかるようにおねがいします。
その日の夕方、正月のごちそうにされようとした母羊と子羊を連れて、夜のうちに地主の家を逃げ出します。
母羊と子羊とわかれた男の子は、王さまの使いに、馬の言葉がわかることを見込まれ、王子の耳の病気を治してくれるよう頼まれます。
無理やり王さまのところへつれられ男の子は、王さまから、しじゅう 病気を治すよう催促しますが、医者でもない男の子に 病気を なおす手立てはありません。
男の子は、食べ物も のどをとおらず、ツァンパを 屋根に 放り投げると、たまたま 屋根には、庭のカラスがいて、あらそって 食べはじめました。
カラスの会話を聞いた男の子が、王子の耳に入っていたクモの親子を外に出すと、王子の耳は 日に日に よくなって、五日目には すっかり治りました。
男の子は、約束通り、王さまから国の半分をあたえられ、国中の人や どうぶつたちといっしょに、しあわせにくらしたという。
天の神は万能と思っていると、悪魔に負けた天の神というのも意表をついた登場。耳の中にいるクモの親子を引き出す方法も細かい。
チベット高原の雰囲気や人々の衣装なども味える絵になっています。
このタイプの昔話では、国の半分だけでなく、王女との結婚もセットであるが、松瀬さんの再話では、王女がでてこないのにも ほっとする。なぜなら 昔話では、女性が いとも簡単に ものあつかいされるのが おおいので。