小さなサンと天の竜/チェン・ジャンホン:作・絵/平岡敦・訳/徳間書店/2016年
むかし、三つの山に囲まれた谷間に小さな村がありました。大雨がふって、がけ崩れ、村の畑は、岩や泥に埋まってしまいました。
長老たちが話しあい、畑をあきらめて、すみなれた家をあとにします。残ったのは一軒だけでした。その家に、赤ん坊が生まれました。サンと名づけられたその子はすくすく育ちます。
毎朝、おかあさんは サンをせおって山の向こうの畑にかよっていました。やがて、サンが六歳になったとき、おかあさんはひどくつかれるようになり、とうとう畑仕事にでられなくなりました。おとうさんまで、力なくすわりこんでいました。
山がなければ、畑仕事は楽になります。「僕が、山を動かす」サンが言うと、おとうさんは「山を動かすなんて、むりだろう」といいます。
しかし次の朝、サンはつるはしを手にし、樽を背負って家を出ました。つるはしで岩を砕き、かけらを樽に放りこむと、北のはずれに運びました。
サンは「山を動かすんだ」と、心の中でくりかえしながら、毎朝、岩を削っては、かけらを村はずれに運んでいきます。
そんなサンを見て、おばあさんは「かわいそうに、やっぱり、この子はどうかしているよ」と、なげきますが、お母さんだけは「いえ、サンはとくべつな子です。いつか、大きなことをなしとげます」と信じます。
そんな毎日が続き、冬のある日、ほら穴に住む仙人に出会います。仙人は、力の出るキノコをくれ、あしたも、ここにくるようにいいます。
サンは、毎日、おじいさんのところにいきました。仙人は毎日、サンのあとをそっとついていきます。
そして、春が過ぎ、夏も終わり、秋がふかまった秋最後の満月の日に、ふたりは三つの高い山をのぞむ岩の上で三つのキノコと、三つの石をおき、三つの盃にお酒を注ぎ、祈りをささげます。
すると、三筋の稲妻が闇をひきさき、三頭の白い竜があらわれ、三つの山の上をまわりはじめました。竜は火を吐きながら、猛々しく吠え、大地から山を引き抜いて北の方に運んでいきました。すさまじい音がしばらく続き、竜の姿が見えなくなると、あたりは、しんと しずまりました。
朝日が昇るころ、サンは家に帰っていきました。
聳え立つ三つの黒い大きな山、意志の強そうなサンの表情、三頭の白い竜の存在感がきわだっています。
祈りをささげる岩の上に、三つの石像?がたっているのは、なぜなのか、仙人(ここではおじいさん)の、その後も気になりました。