fragments

2019-11-12 22:04:08 | 旅行記


ローマのとある教会。ローマの街なかは騒々しく、車も多く喧噪に満ちているのだけれど、こうした教会の中に入ると、ドア1枚で区切られているだけなのに静けさがあります。
珍しく内装が白い教会。その分、窓は小さくても明るい空間でした。

壁には、石に掘られた古い柱飾りの断片や、天使の彫刻が、白いプラスターで埋め込まれていました。
上の方に開けられた小窓から光が降りてきて、そうした断片の数々を静かに照らしています。



光が当たる面と、影になる部分と。そんな雰囲気のなかで、事物が静かに息づいています。
なにか、ずっとこうあり続けるんだろうなという安心感に包まれます。

新しく造られる家にも、こんな気分が表れるといいな。
そんなことを時折思います。
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ボッロミーニという人

2019-08-27 21:43:08 | 旅行記


17世紀のローマに、フランチェスコ・ボッロミーニという建築家がいました。
ルネサンス時代の後に現れた、過剰な造形のバロックという様式時代。
ボッロミーニは建築一本の人でした。作品数は多くなく、その作品の造形密度から察するに、ひとつひとつの仕事にまさに全身全霊をかけたであろう人です。

同時代に、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニという建築家がいました。
同じ通りに数軒はさんで両者の作品は立ち並び、ローマ市中のとある広場でも作品が競合。ライバルとして、犬猿の仲として言い伝えられています。

ベルニーニは、建築家であるだけでなく、彫刻家であり画家でもあり、どの分野でも超一流と言われました。
器用な人だったのですね。バチカンの列柱回廊のデザインも彼の手によるものでした。
洗練された作風とともに、多くの仕事の引き合いがあったようです。

ルネサンス様式の街並みのなか、ボッロミーニのデザインした教会は迫りくるような造形で異彩を放っています。
端正であったり、上手であるという評価とは別の、独特の存在感。それをなんと表現したらよいのでしょうね。

写真はボッロミーニ作 サン・カルロ・アッレ・クワトロ・フォンターネ聖堂。内部がまた、ものすごいんです。


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サンタサビーナ

2019-08-22 19:39:57 | 旅行記


眼も眩むような暑い陽射しの屋外から、室内にはいったとたんに訪れる陰りと静寂。そんな空間体験があると思います。
かつて、暑いローマのサンタサビーナ聖堂でも、そんな体験をしました。
ローマでも最も古い聖堂ですが、空間造形が古拙である分、どすんと溜まる闇や、光の戯れを、ずっと体験していたくなるような空間と時間でした。

技術が発達し、いろいろなことが実現可能になって、空間体験も多種多様になっているはずなのに、やはり惹かれるのは古拙なもの。
古ければ良いということではありませんが、やはり物事のあり方が無垢なのだと思います。
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コルトーナの街で

2019-03-02 22:17:14 | 旅行記


3月になると、これまで行った旅行のことをよく思い出します。
なぜか3月に旅行に行くことが多いのですが、それはたぶんオフシーズンで旅費が安いとか、観光客も少なくてゆっくりできるとか、そんなこともあって、まだ寒く身も引き締まる思いで旅に出ることが多かったように思います。

写真は10年近く前に行ったイタリア・トスカーナの街 コルトーナ。
初期ルネサンスの至宝とされる宗教画などもあるものの、小さくて静かな山の上の街。

あたりまえのものが持つ美しさ、そんなものに僕は心惹かれます。
コルトーナの街を歩くと、写真のような佇まいによく出会います。
地元で採れる石でできた壁と、木の分厚いドア。
ドアノブは開けやすいように大振りで、何度も握られてすっかり摩耗していい味になっている。
少し模様のつけられた床の舗装は、素朴だけれども、樹影を引き立てています。

自然素材を多く使える風土というのはうらやましい限りとはいえ、これみよがしなデザインがないのに、この美しさはなんだろう。
ここで暮らし、この家のなかで仕事をし、晴れた日にはこのテラスに椅子とテーブルを出して休憩する。


さして特別ではない、でも気に入ったものに囲まれた静かな生活。
そんなあたりまえの日常の光景を思い描くだけで、なんだかじんわりと幸せな気持ちになります。
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ちいさな中庭

2019-02-07 22:22:03 | 旅行記


息子が今春から通う小学校は、今年で創立145周年を迎え、区内最古だそうです。
学校の敷地も思いのほか小さく、傍に神社もあって、古くからあったんだろうなあという雰囲気がじんわりとにじみます。
でも、校舎は創立当初のものでは当然なく、鉄筋コンクリートの建物です。

小さな子どもが過ごす環境が、ずっと昔のことを感じ取れるような雰囲気だったら、もっと素敵だろうな、と思います。
そんなことを考えながら思い起こすのは、イタリア・フィレンツェにある「孤児養育院」です。

イタリアの初期ルネサンス建築の巨匠フィリッポ・ブルネレスキが設計した施設で、15世紀に建てられた古い建物が、今も子どもの養育のための施設として使われ続けています。
石造だから建物は残りやすいわけですが、現代の実用に合わないことがあるのは承知のうえで、大事に使われ続けています。

ルネサンスという時代は、それまでの形式から離れて、人間本位に立ち返るような時代でした。
この孤児養育院も、子どものスケール感に合わせるかのようにして、それまでの時代には考えられなったこじんまりとした居心地の良い回廊と中庭を、ひっそりと抱いています。
数世紀の時間を隔てて、そこを走る子どもたち。



長い年月の間に無数についた傷と、褪せてくすんだ色。ずっと昔からあった場所に、身を置くということ。
それだけで、何かに守られるような安心感とともに、自分以前の存在や時間を大切にする心が育まれるようにも思います。

いつか僕が子どものための施設を設計することがあったら、必ずブルネレスキの養育院を思い出し、そこに浸みわたっていた親和性と穏やかさと包容力に思いを馳せながら設計するのだろうなあ。
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